太平洋戦争直後のカルタを拝見

 今日も今日とてネジパル打って銭稼ぎ、と思ったが、良い台が見つからず、頃合いに煮詰まる(=当たりやすい回転数に誰かが廻してくれる)のを待つ為、暫し街をふらふらと。
久々に古本屋に入って全くの趣味で郷土史や昔の文献などをアットランダムに読んでみたり、大正から昭和前期にかけての雑誌などを読んでみたりとするうちに、面白いものを発見した。


 昔のカルタで、恐らく戦後まもなく、進駐軍に対する恐怖心などを払拭させるため、及び旧来の戦争教育を廃し、民主主義政策を推し進める教育の一環として作られたものだと推測されるものなのだけど、いや、面白い。
値段がちょっと張ったから買うのは躊躇われるし、かといって携帯で写真撮るのは今流行のデジタル万引きになるし、と、思案した結果文面だけを携帯のメモに書き込む事にした。
これもデジタル万引きだ、と云われると、ごめん、次はしないと反省するより他は無いのだが。
ま、まずはその文面を紹介しよう。コロン(:)で区切って俺の感想&ツッコミも併記。特におもろいと思ったのは太字で。


い いつも元氣でにこにこと:うん、良い心がけだ。
ろ ろーま字學べ新時代:素直に英語教えといてくれ。
は 鳩の模樣の晴れ着物:どんな模様やねん。鎌倉名物鳩サブレか。
に 日本の改造これからよ:え?列島改造計画?田中角栄
ほ 本當に世界が大笑い:それって、バカにされてる?
へ 平和の偉人わ日本から:そう言えばノーベル平和賞の日本人受賞者って居ねえな。
と 共にみんなが奮い起て:なんか戦争引きずってない?
ち 駐屯軍の朗かさ:まあ、進駐政策は上手だったと思うよ。
り 利己主義すてて國のため:だから、まだ戦争気分あるでしょ。
ぬ ぬかって居たから此の憐れ:わからん。何言おうとしてるかわからん。絵は変なバラック小屋の絵だし。
る るーずべるとわ平和神天皇から今度はルーズベルトですか。
を 踊る平和の春がきた:うん、平和いいよ。
わ 笑う門にわ福がくる:普通やなー。
か 神に誓てみな(つく)せ:なんか神って多いな。どの神に誓う?
よ よい世界を築きましよう:はーい(やる気無く)
た 正しく明るく朗かに:はーい(ネタ詰まってんな)
れ 禮儀(れいぎ)正しくよい言葉:はーい(ん、やっぱそうだと確信)
そ 底力で奮い起つ:戦後の復興は底力が肝だったのね。
つ 強くて優しいまつかーさあ:ポパイに似てるよね。今考えると。
ね 眠てならぬ大和魂*1:何気なくこういうの入れてくるな。意地つうか。
な 仲良く世界がお友達:まあ、そうであれば良いよね。
ら 樂せず誠でがんばろう:誠って。なんか方向ずれてねえ?
む 村のお宮に鳩ぽつぽ:あー、居るね。めっちゃ。
う 嬉しい平和で總踊り:だったら戦争なんかしなきゃ良かったのにね。
ゐ 偉人に成るにわ社會學:えー、宮台真司みたいなのん?好きだけどさ、社会学
の 野にも街にも鳩がとぶ:あ、そうか、鳩は平和の象徴だからか。
お おとらぬ國と神だのみ:神頼みかよ! 他力本願かよ!
く 國を擧ての大奮起:えーと、挙国一致?
や 休まずたゆまず命懸け:やっぱ戦争気分抜けてねえなー。
ま 丸い世界に笑い顔:あー、はい。
け 今朝わ平和の初おとそ:正月ですからね。
ふ 冨士にきれいな櫻花:すっごい日本的な情景ね。嫌いじゃないけど。
こ 是れから世界の腕だめし:え、また戦争すんの? するんだけどな、経済方面で。
ゑ 笑顔で世界が總親和:うん、そうね、そうありたいね。
て 天まで上れ平和凧:何でも平和って付けりゃあ良いってもんでも無いだろ。
あ 明るいきれいな朝の露:ごく普通の描写ね。ネタ無いな?
さ 咲た櫻に櫻桃:如何にも春、って描写だね。
き 築く平和の笑い(こえ):やっぱ笑いこそが平和を導くのだろうか。
ゆ 愉快に笑て花をつむ:(上から続いて)怒っててもしょうがねえしな。
め めりけん波止場に寶船:何処だメリケン波止場って。横浜港?
み 民主主義をみな學べ:唐突に命令。
し 眞の平和にみな笑顔:もう笑うしかない、って感じだったのかしら。
え 榮耀榮華わ國つぶす:栄華自体は良いのよね。そこから傲慢になるから国が潰れる訳で。
ひ 日の出わきらきら美しや:ん、これも新春らしいね。
も もんぺい姿も思い出か:モンペにセンチメンタル。
せ 世界平和の初朝日:つう事は、1946年の新春?
す 進む平和に使う智惠:うん、知恵は正しく使ってこそ生きる
ん 運と神樣目に見えぬ:これ絶対こじつけたな。


 どう? 面白いでしょう。
敗戦を迎えいざこれから、と言う事を示すのが「ろーま字學べ新時代」と言う言葉。
英語に対する抵抗感を無くす為にローマ字を使用した歴史は実は明治時代まで遡る(ローマ字自体の歴史は更に戦国時代まで遡る)のだが、1946年に文部省が「これからはさらに新しく国際社会の一員として更生するためには、国民一般がローマ字で自由に国語を読み書きする能力および習慣を持つことが必要である」*2とその教育の必要性を説いた。それを受けての言葉だと思う。
また、「民主主義をみな學べ」なんてストレートに言ってるよね。何故か命令形だけど。
まさに、教育の為の言葉でしょう。


 新しい時代、と言っても人間の精神はなかなか変わらない。
その事を良く示すのが「利己主義すてて國のため」「眠てならぬ大和魂」「國を擧ての大奮起」と言う言葉。
これ、戦時中に使われててもおかしくないよね。
逆に言えば、そう言う言葉がまだ抜けず身にしみていた、と言う事にもなる。


 更に、「るーずべるとわ平和神」て言葉。
平和神て。天皇人間宣言して、人は神では無いと言ったばっかだろ。
因みにフランクリン・ルーズベルトが死去したのは1945年なので、このカルタが作られたのは恐らく1945から1946年。だと思う。
あー、でも死んだから「神」って使ってるのかな。だとすると1946年以降になるね。


 こんな事を、何時しかネジパル打ちに戻る事すら忘れ、一人でニヤニヤしたり眉間に皺寄せて考えていた。
古本屋、と言うと最近ではブックオフの様な新古書店を指すことが多いと思うけれど、所謂生粋の古本屋に偶には足を運んで、こういった類の物を見てみるのも良いよ。
変に小難しく考えるのではなく、ね。

*1:だいわだまと表記

*2:この文面は「ローマ字資料室」 http://www.halcat.com/roomazi/doc/index.html より引用