深夜のタクシーに声優番組は流れ


 今日は晴れると思って傘を持たずに出掛けたは良いが。
夜になって土砂振りですよ。
まあ、駅からそんなに歩く訳じゃないし、と高(たか)を括(くく)って居たのだったが、丁度友人から電話があって少し話し込んだのと、それからコンビニで頼まれていた買い物を済ませてモノレールの駅まで行ったら既に終電は行った後。
あちゃー、やっちった。でも23時代で終電ってやっぱ早いよな、ちょっと怠けてるよな。と誰でもない誰かに文句を垂れつつ、とぼとぼと階段を下りる。


 コンビニで傘を買おうと思っていたが既に売り切れて居た。
何時もなら是非も無し、と歩いて帰る所だが、土砂降りの中傘も差さず5キロもの距離を歩くのは自ら風邪を引こうとするようなもの。幾ら俺がバカでもそれはちょっと。
しょうがないのでタクシー待ちの長い列に加わる。


 雨の所為か、5月にしては寒い。
長袖のジャケットを着ていても体が冷えてくるのが分かる。
歩かなくて正解だったかな、と自分を納得させるように独り言ちて後、漸く俺の番が来た。
「某駅まで」とシートに背を投げ出しながら初老の運転手に告げ、ふと耳を澄ませば。
独特のアニメ声でラジオ番組のオープニングを叫ぶ声。
そしてテーマソングが始まると、明らかに別の声が前から聞こえる。
…運転手?!しかも結構ご機嫌?!


 深夜の、雨の中を疾走するタクシーの中で。
初老の運転手のご機嫌なシンギングと。
声優の生ぬるーいトークと。
俺は一瞬、このタクシーが俺を何処か−例えるならパライソとか−へと連れ去って仕舞うのでは無いかと言う妄想すら抱いていた。
頭の中で電気グルーヴの「何とも侘びしい気持ちになった事はあるかい」と云う歌をリフレインさせながら。


追記:一番腹が立ったのは俺がタクシーを降りたら雨が止んでいた事だ。