花火に行って面白いヤンキーを見た事

花火

夜、自分の部屋で暇つぶしに麻雀のゲームをしていたら、猫がもの凄い勢いで部屋に入って来、物陰に逃げ込んだ。
まーた母親が何か悪さしたのかな、と思っていたら、外の方で爆音が聞こえた。
どうやら、今日は花火があるらしい。最初は麻雀に熱中していて気が付かなかったが、息抜き序でに見てこようか。


 下駄を履き、携帯と煙草と財布を持って外に出る。
花火は家の近所で上がっていて、もう眼前に花火が見える。
ふらふらと、その下にまで歩を進める。


 街、と言っても他県の小さな市よりは人口は多い。
だから、こう云った祭などがあれば相応の人出はある。
雑踏を掻き分ける様にしてよく見える所まで歩む。


 花火が終わり、家路に就く人々と、まだ余韻冷めやらずに幾人かで話し込んだり、残っている出店に買い物に行く人々。
特に後者は若者が大多数だ。夏休みに入り、こうしたイベントに精を出した覚えは俺にもある。
何か、俺も食うものでも買おうかな、とその出店が連なっている通りを歩いていた時の事だった。
火を付けていない煙草を口にくわえ、色々な店を様子見していたら、所謂ヤンキーの一匹と正面、かち合った。
別に俺は余所見をしていた訳ではない。単に道を譲るのが厭だっただけなのだが。


 俺は、道を譲らないタイプではある。
正面から来るのが老人や女性だったら率先して道を開けるが、そうではない者に道を譲る道理も無い。
俺が前方を注視していたのに対し、ヤンキーはきょろきょろと前方不注意であったから、そう言った点で非も向こうにある。
にも関わらず、そのヤンキーは俺に毒づいてきた。


 と、こう書いていると恰も、俺が無茶なタイプかと思われるだろうが、実際俺はかなりのヘタレでもある。
喧嘩して自分が負けそうな奴に喧嘩売るような莫迦な真似もしない。
俺に毒づいてきたそのヤンキーは、確かに耳に幾つもピアスを入れ、全く似合わないHIPHOPテイストの悪ガキファッションに身を包んでいたが、顔つきには幼さが残り、何よりも背丈は俺の胸までしかない。
数で来られれば俺は逃げ一確、しかし一対一なら確実に勝てる。そんな相手に毒づかれてもね。
何やらその駄犬が吠えるので、顔を動かさずに視線だけを下に向け、じっと眺めていたら、何か云って去っていった。
やれやれ、と思いつつ、内心では喧嘩になったらどうしよう、とも思っていた小心者たる俺。


 結局特に買いたいと思うようなものもなく。
少し雑踏を離れ煙草を吸って人間観察をしていた。
大多数は中高生。その内、所謂ヤンキー風情も結構な数が見られた。
今も昔も、祭となれば彼らの出番。行き場の無いエネルギーをこういう所で発散させるのだろうか。


 そんな中に、面白いヤンキーを発見した。
剃り込みの入った旧ベッカムヘア(ソフトモヒカン)。断っておくけどモヒカンじゃないのよ。
今時、旧ベッカムヘアってどうなのよ。しかも変な剃り込みってオプション、どうなのよ。
美醜の感覚で云えば美にはほど遠く、そしてカッコ良い、カッコ悪いと言う観点で云えば確実にカッコ悪い。
にも関わらず誇らしげに、且つ貧相に歩く様は、彼らの美意識の無さを窺わせるものだなあと思った。


 人がまだ残る車道では、花火を見て興奮してしまったウチの猫の様になった無軌道な若者達が、警察を挑発するように暴走行為を始めている。
原付で粋がってもねえ。所詮原付なんだから。身の程を知らないと言うのは無様だなあ。それが若さというものだろうか。
先程ヤンキーに毒づかれた腹いせか、ヤンキーに対して容赦無く毒舌が出てくるのに失笑しつつ、喧騒から離れ静かな所に腰を下ろし、煙草に火を付けた。


 夏にも関わらず、風は冷たく、暫く風に当たっていると体が震え始めた。
駄目だ、寒い。帰る事にしよう。
明日はまた、雨が降るという。今年の夏は、何処かちょっとおかしい。
何よりもまだ、夏という感じが微塵もしない。