胃カメラ飲んで撮影開始

 さて、飲んできましたよ。胃カメラ。業界人ぽく云えば胃キャメラ
わざわざ前日の夜から飲食を止め、胃の中をからっぽにして。
胃の痛みを覚えてからほぼ一月、医者に行き、薬を飲んでから沈静化していたので、「ひょっとしたらカメラ飲まなくても良いかも」と一縷の望みを抱き扉を開いたものの、そんな事は在る訳もなく。
土曜日で、混雑した待合室で待つ事になる。


 待合室のソファに座っていたらいつの間にか熟睡してしまっており、「Wacremaさーん、診察室へどうぞ」という声にも気が付かず眠りこけていた所、看護婦さんに直に揺り動かされ漸く起きると言う失態を披露。
よだれを拭きつつ恥ずかしさを隠して診察室に向かう。


 はあ、と溜息を付き診察室の中に入って椅子に座ろうとしたら、看護婦さんにこちらへどうぞ、階上の検査室に案内される。
なんだか普通の家の二階に急ごしらえで作ったような検査室だが、ベッドの横にはオリンパス社製の胃カメラ、そして日立製の超音波スキャナーがあり、水場などはきちんと設備されている。見た目で判断してはならない。
まず、台所、じゃなくてその水場でうがいするタイプの麻酔をする。
紙コップ一杯程度のうがいをすると、次第に喉や、口の中が痺れ、妙な違和感を覚え始める。
感覚が麻痺していて、油断すると口端からよだれが垂れそうになるのでいつもより3割り増しに口元を引き締める。
次に、胃の動きを止める注射を肩口に行う。俺は右肩をよく使うので左にして貰う事にした。
この注射、最初こそ大したことは無かったが、暫くしてから激しく鈍痛が走る。眉間に皺が寄り、思わず「ぐ…」と声に出てしまう。


 次に、ベッドの上に寝かせられ、スキャナの準備をする。
仰臥し、胸元にタオルを置かれると、看護婦さんがシャツとパンツを適度に逃がせ、ローションを塗る。
多分風俗ってこういう感じなんだろうな、と緊張感の無い事を考えていたら、その看護婦さんが思ったより巨乳であらせられるのに気が付き、さらに邪な方向に妄想がシフト。いかんいかん、と邪念を払い無心になっていたらいつの間にかまた寝る。


 お医者さんの「それでは検査しましょうか」と言う声で起き、今まで自分が寝てたのを隠すように爽やかに、はい、お願いします、と挨拶。
超音波スキャナなんて、魚群探知機みたいなもんかと思っていたが、想像していたよりも鮮明に映像が映し出される。
フルカラーでは無いものの、形状などは細かに分かる。
腹側から、俺のはらわたをチェックし、プリントアウトした後に、それでは、ちょっとしてから胃カメラに入ります。楽にしてて下さい、と先生は告げ、降りていった。
いいんですか、楽にしてて。また寝ちゃうよ?


 案の定、また寝た。しかも口開けっ放しで。ほれ見た事か。
俺が起きたのは、俄に周りが騒がしくなってきたからだった。
んが? と寝ぼけ眼で周りを見ると、器具の洗浄や道具の手配などを看護婦さんが行っていた。
丁度目覚めた直後に先生が入室してきて、麻酔の具合などを俺に尋ねた後に、いよいよ胃カメラ開始。


 仰向けから横に体の向きを変え、カメラを通すマウスピースを銜える。
唾液などはそのまま、マウスピースから垂れ流して良いらしい。寧ろ、飲み込むと色々と不具合があるという事だ。
そのマウスピースを経由して、いよいよカメラが潜入。
最初は喉の辺りに不快感を感じ、そして更に奥へとカメラが入ってきた瞬間。
激しい嘔吐感が襲い、反射的に嘔吐する。胃の中は空なので、僅かばかりの胃液が逆流してくる。体に力が入り、楽にしてと云われた手は知らず知らずに拳を握る。
吐くものが無いから、空気ばかりをひたすらに嘔吐し、カメラの先端が咽喉を通過した頃に漸く一段落する。


 若干楽になってくると余裕が生まれるもので、背中をさする看護婦さんの手が、微妙にポイントを外していたりする事や、カメラのケーブルが思っていたより太い事にも気が付く。更には、モニターを見る余裕も出てき始めた。
モニターに映る、ピンク色の肉壁。俺のはらわたそのもの。若干の律動を示すその中をカメラが進んでいく。
不謹慎かも知れないが、こうして見ると女性器というのはやはり、はらわたであるのだなあと思っていた。
まあ尤も、男性器自身も一種の奇形化した内臓であるのかも知れないのだが。


 そんな事を考えていたら徐に先生が、ちょっと胃に違和感が出るかも知れません、と仰った後に、胃を中から突かれているような厭な感覚が始まった。
どうもカメラで更に先に進む為に道を探索しているらしいのだが、何とも言えぬ厭な感じ。
民話・一寸法師では鬼の体内に入って懲らしめる話があるが、これのもっとひどいのがあれだろう。そりゃ鬼もギブて云うわ。
先程の嘔吐の時もかなりのものだったが、この胃の中をつつかれるのも相当な嫌悪感を覚える。
麻酔などのお陰で苦痛は大して感じないのが幸いではあるけれど、苦痛が無くても嫌悪感はある。
眉間に皺を寄せ、暫く耐えて後に、無事に件の十二指腸へとカメラは向かう事となった。


 ああ、これが潰瘍です。
先生が指摘した所には、明らかに周りと色が違う所が映し出せれていた。
生憎目が悪いので細かくは分からんのだが、それでも違うと言う事だけは分かる。
痛みは最近無かったから安心していたけど、やはり十二指腸潰瘍、一確。
あー、手術とかすんのかな。お見舞いとか誰か来てくれるかしら。相部屋って厭だなあ。
そんな先の事までもの凄い勢いで想像してしまう。


 カメラを抜き、一息入れてから先程撮った写真を見て検証に入る。
まず、十二指腸潰瘍ではあるが、治ってきている兆候であるため、薬を飲んで様子見という事になった。
そして更に先ではあるが、ピロリ菌という潰瘍の原因となるような菌を根絶させる為に薬を飲む、と言う事。
このピロリ菌は胃腸に対して結構なダメージを与え得るものであるらしい。ピロリ、なんて芸人みたいな名前なのにね。可愛い名前でババンバンとはこの事よ。
ただ、個人的には自然に体内にあるもので無益なものは無い、と思っているので、根絶はさせたくはないが。
あと、胆嚢とか云う所にポリープが発見されたが、血液検査の結果や日頃の習慣から、良性の腫瘍であるだろうと診断された。
まあ、ポリープって云うから何か怖い感じがするだけで、「できもの」つったらどうと云う事もない。


 前日より飲まず食わず喫わず、と20時間くらいした所で漸く総てが終わり、内科の扉を開け外に出た。
喉の麻酔が切れてから飲むヨーグルト(胃腸を気遣って)で乾いた喉を潤し、煙草に火を付け、ミスドで飯を食う。
ドーナツを食ってから、「俺、うどんとか食え」と思ったが。その辺りがやっぱ、微妙に頭が悪い証。
とはいえ、結果的には対応が早かったので思っていたより大した事にはならなかったのは幸いだった。
十二指腸潰瘍自体は、20代から30代に極めて良く見受けられるモノだという事だ。
早めの処置が重要である事を認識した。めんどくさいんだけどね。


 俺は胃炎かと思っていたら潰瘍であったが、ひょっとしたら、諸君の中にも同じような感じの方が居られるやも知れない。
体の何処であれ、自分自身で違和感を感じていたり、或いは痛みが継続するようであるのなら、症状が固着する前に早めに対応しておくことを勧める。
尚、横浜近郊で循環器系の内科を探して居られる方には俺の行った所をお勧めする。
「医療は患者の為に」というスローガンが何よりも好意的であったのがその理由。
病院名は書かないが、場所は、京浜急行杉田駅のすぐそば。聞けば多分すぐに見つかるだろう。


追記 でも医療費高いよなー。一回の診療で薬代含め、一万、ぽーんと飛んでったわ。
まあ検査があったから高くはなるのだろうけど、2回行って2万だもん。はあ。吉宗で大敗してる場合じゃねえな。