振り替え輸送であたふたと

 最初に行ったスロ屋の状況があまり良くないので移動しようと電車に乗り込んだ。
ヒップバッグから先日買った乱歩の全集を取り出して読んでいたら、駅に止まったまま電車が動かなくなってしまった。
何でも、都内で急に降り出した大雨と落雷の所為で、運転を見合わせている、という。
こういう事があると必ず、躾のなっていない駄犬がぎゃんぎゃんと駅員や運転手に吠え立てるものだが、自然相手ではどうしようもあるまいに。


 俺はホームの喫煙所で煙草を吸って暫く様子見し、また車内に戻って本の続きを読んでいたが、こんなアナウンスが流れた。
−この電車の運転の目処は立っておりません。
あらん。流石に何時出るのか分からない様な電車に何時までも乗り続ける訳には行かないので、振り替え輸送を利用させて貰う事にした。
俺が降りたのは、まあ近くではあるけれど降りた事の無い駅で、バス停なども何処にあるのか分からず、下町の小さな商店街を延々、他の人に付いていく。
先述した通り、別に遠い訳では無いのだけど利用した事が無い駅、商店街を歩くというのは、ちょっとした旅気分。
古本屋が案外多いんだな、とか、こんな洒落たバーがあるんだ、とか、古ぼけたパチ屋見つけた、とか、そんな事を発見しながら歩く事暫し、漸くバス停に着いた。
だが、バス停は先程の電車に乗っていた人の殆どがこちらに流れてきている様で、かなりの行列に成って居る。
これではバスが来ても乗り切れないだろう。ま、時間稼ぎさ、と先程見つけた古ぼけたパチ屋に入ってみる。


 そのパチンコ屋は本当に、時間が10年位遡った様な店で、置いてある台も最新のモノなど無い。
狭い店内に、客は3人、店番の太ったおばさんは煎餅食いながら新聞読んでる始末。
何とも生温い雰囲気を感じ取りながら、何台かの古い台をやってみる。
何せ、見た事無いものもあるから、どうやるべきなのかも分からない。まあ、本気で稼ぎに来た訳じゃないし、と、本当にちょろっと触った程度で再びバス停に戻る。今度は、打つ台の下調べをしてから来る事にしよう。


 バス停はさっきよりも混雑していた。
一瞬、何故、と思ったが、後続の電車を駅にまで寄越し、そこで客を降ろしたようだった。これでは、恐らく時間を潰しても埒が明かない事だろう。俺もその列に並ぶ事にする。
数分程してバスが来た。良く前を見ると、乗る人と乗らない人が別れている。やばい、と後ろから抜け出して走って乗る方に並び直す。
並び直し、バスに乗ったは良いがこれ、何処行くんだ。
よく考えたら、JRは全部止まってるから駅行ったらあかんやん。
かなり混雑した車内で、苦労して窓からの光景を見ると全然知らない道走ってるし。


 暫く走った後、とあるバス停に着くと皆、そこで降り始めた。
多分、大勢の人が降りるという事は大きな駅などが近くにあるに違いない、と、半ば押し出される様に降りる。
所が。
そこは見た事の無い土地の、大きな団地のバス停だった。つまり、そこに住む人達が大勢、乗っていたという訳で。
だから、最初に乗る人と乗らない人と別れていたという訳で。もう、慌てんな、俺。
しょうがないので別のバスを待ち、関内駅の方へと向かう事にするが。


 てっきり関内の方に行く筈、と思っていたバスが大きく駅の方から外れ、次第に海側に来ている。
まずいまずい、このままじゃ行き過ぎる、と慌ててブザーを探すものの、混んでいて見あたらない。つうか俺、こんなにバス混んでるの殆ど見た事がない。
先入観でブザーは窓の所にあるもの、とばかり思っていたが、どうも最近は天井にもあるようで、漸くブザーを押したものの降りたいと思っていた所から離れてしまった。
俺が降りた所は、思いっきり海っぺた。こんなとこ、デートでもするんじゃ無い限り来ねえよ、つう所。


 何だかなあ、と思い、そしてとてもじゃないけど今からスロ打っても時間が足りない、という感じになってしまったので、様子見だけして行こうと関内に赴く。
何だかなあ、とは思ったけれども、でもネガティヴな、陰気になったり腹を立てたりするような感じでも無くて。
どちらかといえばその様々な些細なトラブルは、俺にとって滑稽だったし、楽しいとさえ思えていた。


 どうせ自然現象には勝てない。
だったら苛つくよりも、面白がった方が得、だと思う。
その苛つく気持ちも分からないでは無いけれど、それでも、ね。
まあ、流石に、スロ屋から出て後、軽く数ゲームでも、とゲームセンターに立ち寄ってから駅に戻ったら、まだ尚もの凄い遅れが出ていて、30分は待たされた時には、おい、とも思ったが。
だって、モノレールの最終、鉄板で間に合わないし。