神奈川プチトリップ

 友人が遊びに来たので、共に小さな旅をする事と相成った。
この数日更新が遅れていたのはサボっていたからではなく、斯様な理由があったからである。
初日こそ、桜木町、関内周辺という個人的に地域密着型の彷徨をしていたが、翌日は車もあることから遠くに行ってみようという算段になった。


 まずは如何にもと言った風情のある湘南へ。
R134を通り一路、海へ。
由比ガ浜のあたりの駐車場に車を止め、砂浜へと降りる。
今や暮秋、いや、もう暦では冬であるにも関わらずブーツの中まで潮でびちゃびちゃにし、寒風に当たりすぎてガタガタ震えるような事は、決して齢三十を超えた奴等のすることではない。


 寒いなあ、温泉行こうか、という事で、日が暮れてから一路、箱根を目指すことになる。
箱根へは何度か運転していった事があるので俺が運転手となったのだが、何しろ潮でぐっちょんぐっちょんのブーツが気色悪い。なんか砂でじゃしじゃししてるし。
逸る心を抑えて安全運転で小一時間、箱根の観光紹介所に到着した。
本当ならカプセルなどの安い宿に泊まる算段ではあったが、ここからまた戻るのも何だし、参考までにと訊いた旅館がシーズン外と言うこともあって、結構安い値段を提示してくれたのを受け、そのまま箱根に投宿する。


 観光協会で貰った地図を片手に再び走り始めたは良いが、道を間違えて走り続けている内にそのまま山を降りてしまうという辺りは、何時も通りというか、相変わらずというか。
到着予定時刻よりも遅れること凡そ40分、漸く宿に着いたのは既に夜9時頃であった。
仲居に部屋を案内してもらう間に、足が濡れているので畳に足跡がつくのが何とも格好悪かった。
部屋に荷物を置き、まずはと温泉にダッシュ。脱衣場で服を脱ぎ、ガラガラと引き戸を開け露天風呂に勢い込んで向かったは良いが、寒くて露天までたどり着けずにまた戻る。
2,3回ほど同じ事を繰り返した後に、度胸を決め露天風呂まで内股でダッシュ(滑るから)。
体を流し入った湯は極楽。風呂は人類の発明した偉大なものだなあと実感。
外で飯を食らってそのままご就寝。


 明けて翌日、そのまま箱根の観光をする。
適当にパンフを見ていたら箱根関所が近いようだったので、そこに。
説明の必要は無いかも知れないが、ここは入り鉄砲と出女を取り締まった、東海道の関所である。天下の険と謳われた箱根の山にあり、昔ここを通りぬけるのはさぞ、困難なことであっただろう。
そんな事に思いを馳せていたらお土産屋で家紋の入ったキーホルダーを発見。
葵の紋を見てすぐに吉宗の大当たりのシーンを思い浮かべてしまったり、更には打ちたくなったりする辺りで、ああ、俺は病んでいると実感。その事を悟られたかのように、友人から葵の紋は買わないでええのか、と言われる。
おいおい、そこまでしたらジャンキーじゃねえか、と軽口を叩きつも、本当は欲しかったです、はい。


 トイレ休憩がてら、芦ノ湖のほとりの大型みやげ物店に入った時の事。
俺は大用の方に入ったのだが、入ってすぐにおばちゃん達の声が響き渡った。
待て、俺、女便所に入ったっけか?否、俺は男用に入った。間違いない。
ならばこの、すぐ外から聞こえてくるおばちゃんの声は何ぞ?
と、混乱に陥ってすぐ、ドアを乱暴にノックする音。しょうがないのでこちらもノックし返すと、再度ノックが。外ではおばちゃん達が「入ってないのかしらねえ?」などと言っている。
こちらが何度返してもノックしてくるのに苛立ち、ドアを殴りつけた所、漸く気がついてもらえたと見え、「入ってるなら返事して欲しいわよねえ」など宣う。
流石の俺もカチンと来ましたよ。でも言い返せないの。相手がおばちゃんだから。
恐らく、史上最強の生物はライオンでもアメリカ合衆国でもなく、おばちゃんと言う生物だろうから。


 その後、俺たちは何となく江ノ島へと向かう。
江ノ島では単に疲れただけなので諸事記す事はしないが、ただ、島に入ってすぐのところにある海産物を扱った店で、友人がサザエのつぼ焼きを食ったところ大ヒット。
立て続けに店を変え、焼きハマグリとつぼ焼き、計5個は食ったのではないだろうか。
店変えても味は変わらないだろうに、と思うのだが、店を変えた理由は照れもあるらしい。あいつ、また食いに来たよ、と思われるのも癪なのだろう。ま、立て続けに5個は、流石にね。


 やがて周りは夕闇が包み始め、あまり遅くなっても、という事なので俺は横浜市内で降ろして貰い、友人は再び戻っていった。
丁度友人の来る直前に大勝したのも、考えてみればその為だったのかもしれない。
そう考えると、いろいろと、有難い事だなあと痛感せずには居られない。
俺は運命論者などではないけれど、ね。