「匿名希望」の方からの書簡

 ふと「きつねのおきゃくさま」という絵本を思い出しました。

 あるところに計算高くて意地悪なキツネがいました。
お腹を空かせたキツネが獲物を求めて森を彷徨っていると、ウサギが倒れていました。
「お腹が空いて動けないの」というウサギを、キツネはその場で食べてしまおうとしましたが、もっと太らせてからの方がお腹が一杯になるだろうと考え、親切な振りをして家まで連れて行き、ウサギを優しく介抱してやりました。


 自分は我慢をしてウサギにたくさんのご馳走を食べさせ、暖かい布団に寝かせ、やがて丸々太って元気になったウサギを散歩に誘い出し、いざ丸呑みにしようとした時、痩せたアヒルがやってきました。


 「キツネなんかといると食べられてしまうよ」と怖がるアヒルにウサギは言います。「ちっとも怖くないよ、キツネのお兄ちゃんはご飯もたくさん食べさせてくれるし、暖かいお布団で寝かせてくれるし、とっても優しいよ」
その言葉に安心したアヒルをキツネは家へ連れて行きます。もちろん太らせて食べる為です。


 こうして親切な振りをした計算高いキツネと、親切にして貰って元気になったウサギとアヒルは数日間を共に暮らします。
 初めは太らせて食べる為だけに親切にしてきたキツネですが、そんな彼を「優しいお兄ちゃん」と信じ、頼り切っているウサギとアヒルに好意を持ち始めます。


 そんなある日、キツネの家に狼がやってきました。狼は初めからキツネの思惑を知っていて、太ったウサギとアヒルを食べてお腹が一杯になったキツネを襲うつもりだったのです。それを知ったキツネは可愛いウサギとアヒルを守る為に狼と戦います。そして、狼を倒したキツネは生まれて初めて微笑むのです。
「誰かに頼られるって、素晴らしいこと。誰かの役に立つって、素敵なこと。お友達ができるって、とっても幸せ」
そうして、満ち足りた気持ちのままキツネは息を引き取ります。最期まで「優しいキツネのお兄ちゃん」と信じられたまま…。


 という話。
このお話のキツネって、最初は悪意に満ちた偽善だった訳ですよね。
けど、そうとは思わず純粋な好意(善意)としてウサギとアヒルは受け止め、キツネを慕った。
結果的に「善」となった訳ですけど、この場合はどうなるんでしょう? 
目的が悪であったにも関わらず、結果が善となる場合。これも偽善でしょうか?