イラクでの邦人誘拐とその後の危惧

　イラクで民間人が３人、捕捉された。
ソースなんざ、どのニュース見ても分かるだろうから各自で。

　予測はしていたが残念な事に、やはり起きてしまった。
考えてみれば外国で人質に取られると言うのは、身代金目的では幾つもあった訳だが、政治目的としての誘拐、拉致というのは初めてなんじゃあないだろうか。
その点で、この誘拐は性質を異にする。

　犯人グループの目的はイラクからの自衛隊撤退だが、恐らく、日本政府はこの３人を人身御供として利用するだろう。
確かに、国家としてそう易々と脅しに乗るようでは威信が落ちる。
まして、テロには屈しないと明言している以上、３人で済めば安いと言う勘定まで、ひょっとしたらされているのではないか。
だが、恐らく３人では済むまい。
警告という意味でこの件を捉え、そして脅迫者の意志に反した結果を出した場合、次はほぼ必ず、もっと大きな事へと至り、そして脅迫者たる強さ、本当にやると言う事実を見せつけるだろう。
と、なると、日本国内でのテロの発生がより現実的なものとなる。
予想するに恐らく、都心に人が戻るゴールデンウイーク明けの最初の平日あたりからが、一番危険になるだろう。

　民間人３人が捕捉された、と言う事の後でも、何処か対岸の火事のような心境でいる人も多いだろう。
だが、この事件は言い換えれば、中東のみならず、日本国内に於いてさえも、自衛官だけではなく民間の日本人が標的となると言う事を示す。
その事をまずは、俺達は認識しなければならない。
決してこれは杞憂ではなく、最早、ケツに火が灯き始めていると言う事実を、焦りと共に認識しなければならない事なのだ。

　しかし、同時にこの一件には不可思議な点も多い。
まず、イラクに入国した昨日の今日で、どうしてあっさり捕捉されているのか。
事前に情報が漏れていたのか、或いは仲介役などの人物が手助けしたのか、それとも、予め仕組まれていた事なのか。
余程衝動的に行われる誘拐でなければ、普通は事前に調査を必要とするだろう。

　また、犯行グループの「サラヤ・ムジャヒディン」と言うグループが、無名であると言う事。
また俺が読んだ犯行声明文には宗教的な匂いが殆どしなかった事。（但し、これは訳者のセンスという問題があるだろう故、あまり深入りしないでおく。）
ジャーナリストは別としても、ボランティアに行っている、民間レベルでのイラクの復興支援という「敵ではない」人間を標的にしている事。

　この事から、俺は二つの事を推察した。
一つは、ひょっとしたら彼らはアメリカの占領に対し憎悪を持つ一種の愚連隊のような私的武装集団で、アルカイダなどのテロ組織の関与では無いと言う考え方。
もう一つは、英米、並びにそれに与する国家に対して、テロ組織の間でその与えた被害などの大きさによって報奨金がかけられており、その報奨金を目的とするグループの犯行だという考え方。
そして、もし後者であったのならば、金目当てに日本で自爆テロを行おうとする連中と、それを支援する団体が存在する事になる。
スポンサーは宗教や国家絡みだろうが、下っ端はそんな事よりも金で動くと言う事、そして死ぬ事を恐れぬ怖さ。

　俺個人としては、出来得るならば自衛隊の撤退を求めたい。
自衛隊が撤退する事で、国家の威信が低下しても、結果として後に起こり得るテロも防げるのであれば安いと思う。
だが、軌道に乗り始めた人道支援策を途中で投げ出して帰る事も出来ないだろうし、させないだろう。
そうなると、交渉による和平的解決を望みたい所だが、何か裏が無い限り、そう易々と人質を逃すとも思えん。
残されるのは、人質殺害、或いは、米軍か、超法規的措置と言う離れ業を用いた自衛隊による「民間人救出の為の軍事行動」。
何れにしても、血生臭い事が控えている。

　そして何よりも、最初の方で記した危惧。
望むと望まざるとに関わらず、否が応でも血を流し、命を落とさねばならぬ人が、それも大勢の人が出るのではないかという事を考えると、俺は空恐ろしくなってくる。
この誘拐事件はまだ、オードブルにしか過ぎない事を、その事実の余りの大変さを、俺達は焦燥感と共に認識しなければならない。
ほぼ必ず、メインディッシュは運ばれてくる。それも、ごってりとした、血と脂の匂いに満ちたものが。

追記　抑えた積もりだけれども、俺はこの文章を、恐怖ではなく、怒りを抱き書いている。