過剰な自己責任論

 予告した以上は書かねばなるまいな。
人質だった人達も総て、何とか無事に帰国する事が出来、そして政府与党、及びメディアや大衆の間で色濃く語られていた「自己責任」「自業自得」論も、喉元過ぎれば熱さを忘れると言う事か、以前とは少し弱くなっているようだ。
この、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」、言い換えれば単なるご都合主義ってのが日本人の悪い所の一つではあるのだが。
ま、ともかく、些か既に旬は過ぎたとは思うが、別に流行廃りのものでもないし、滔々と綴る。
それと、最初に断っておくけれども、別にあの人質を擁護なんぞしないよ。


 そもそも、誰が最初に言い出したのかは解らんが、どうしてこんな話に展開したんだ?
最初に言い出したのは政府? 小泉か福田あたり?
だとしたら、余計タチ悪いね。
「自己責任」を追求するなら、助けになど行かなければ良いじゃないか。
最初っからそう言う姿勢を見せれば良い物を、変に体裁気にして、その上ブー垂れて。見栄え悪いったら。
政府が言うべき事は、「威信にかけて国民は守る」「でも危ない所には行くな。助けられる保証は約束出来ない」。
この二つだった訳でしょう。
結局、自己責任て言葉で政府自らの責任を転嫁してた訳だよね。


 メディアにしてもそう。オヤジ系週刊誌とかは調子に乗って、不必要な個人情報まで晒して攻撃する始末だし、強い口調で人質や家族を攻撃してた読売新聞なんかは、以前にコラムで「無為は赦されない」と書いていたこと(俺の12月11日付けの日記に引用してあるので一読あれ)をもう忘れてしまったのだろうか。
無為は赦されず、かといってボランティアなども赦されず。どうするんだ、あ?
多分、お上や自分たちの言う事に、キンタマの皺でも伸ばしながら頷いて居れば「無為」では無いって事だろうねえ。
右に倣わないから、奇天烈かつ感情的な論調を以て攻撃する。


 この事を、ル・モンドでも言及していた。
訳文は無いので、その記事を紹介した記事をリンクしておく。>>これ。
この文の中で「我が意を得たり」と膝を叩いたのは、「社会秩序を乱した者は後悔の念を示さなければならないのが日本の習慣」という記述だ。
出た杭は打たれる。是則ち日本古来の伝統と風習也。言い換えれば単なる島国根性なんだがね。
その辺りは高潔なるおフランス風情には理解に疎いものだろう。


 確かに、「自己責任」という言葉は、須くどんな物事にも付きまとう。
パチスロ打って負けようが、テストで良い成績を取れなかろうが、女に振られようが、駐禁で切符切られようが、ね。
そして実際に、あの人質となったボランティアにその覚悟や思いが有ったかと言えば、眉唾だ。故に、そこは問い詰めて然り。
でも、そればかり言っていては萎縮させてしまって何も出来なくなるでしょう。
そりゃあ、そうよ。誰だってミス犯したり、ましてや責任なんて取りたくはないもの。
なるべく責任を回避したいから、消極的になる。
会社でも、学校でも、そう言う姿は極めて普遍的に有る事でしょう。
学級委員になりたがる奴は少ないってのが良い例だな。



 恐らく、家族に対して感情的な意見が集まったのは、あの記者会見の映像だろうね。
ズブの素人が突然に、カメラに一言と言われて「自衛隊が居るから捕まった」「自衛隊が撤退する事で人質が帰ってくるなら、自衛隊撤退させて」と言う言葉。
配慮が足りないと言えば足りないが、そこはズブの素人。突然に、言葉など用意出来るかどうかは疑わしい。
それに、これは、家族としては至極当然の感情であるだろう。心情から極論を言えば、国家転覆より家族の命が大事だろう。
その点に配慮が出来なかった一部群衆もまた、人の事は言えまい。
ま、俺の人の事は言えないが、他人を(あげつら)うのは簡単な事。そう言う人間に限って、自分の事には過敏繊細になるのだけどな。


 多分ね、この問題は、突き詰めれば「個」と「公」という事に行き着くと思うんですよ。
あまりにも、「個」が突出していてはまとまらない。
あまりにも、「公」が強ければ単なる統制。
そのバランス加減の問題、とね。
「公」が「個」に対して口出しし過ぎるのは過干渉以外の何者でもない。けれども「個」は、「公」を最低限弁える必要はある。
その点で、ジャーナリストを除く二人は迂闊だし、叩かれてもま、しょうがないね。


 その、「個」と「公」のバランスをはかる上でも、自己責任を言及する必要と、そしてその気持ちは分かるんですよ。
例えば、天候が不安定なのに川の中州でキャンプを張って、挙げ句川が増水して取り残された人に対して抱く感情と同じようにね。
でも、かと言って皆が皆、異口同音に言うべき事でも無いし、まして、赤の他人が善人面で囂々と非難出来るものじゃあない。
そんな暇があるなら、人の振り見て我が振りでも直すべきだ。
その意味では、この事件は非常に日本人の為になり得る事だろう。
何よりも、皆が「自己責任」と言う言葉について考えただろうからね。
考えもせずに言葉にしていたのなら、言う資格は毛程も無い。単に他人の尻馬に乗って騒いで居た莫迦、一確。


 ま、こんなとこです。
それと、「自己責任」って騒いでた政治家は、何か不都合な事があった時、秘書の所為にしたら駄目な。
その秘書雇ったの、手前なんだからな。潔く手前の尻は手前で拭け。
もひとつ。フリージャーナリストの事を叩いてたメディアは、今後一切、そう言ったジャーナリストから記事買うの禁止な。
全部自前の記者を送って報道させるように。無論、テロにあった時はその会社の責任でな。


追記 自衛隊派遣の事は、この問題とは論旨が違うからコメントに書くの禁止。
いや、匿名メールとかに書くのは良いけどね。それは一個人の意見として、俺が拝覧させて頂きます。