任務:カーテンを販売せよ

 今回の任務は「カーテンの販売応援」。とある新規オープンの、格安で家具や雑貨を扱う店で、某大手商社の社員の振りしてカーテンを売るらしい。
カーテンねえ…とその微妙さを思いつつも、スーツを着て現場に向かう。


 「こちらWacrema、現場に潜入した。これより業務を開始する」と、スネークばりに社に報告し担当者を探すが。
担当者が見あたらない。すぐさま社に報告を入れ、しょうがないので代わりに別の方に指示を仰ぐ。
俺一人、独立愚連隊。おーい。めっちゃ不安だぞ。
ま、カーテンなんてそうそう売れるようなもんじゃないし。ましてオーダーカーテンが安いから作ろうてあまり思わないでしょう。
だから必然、俺の仕事はあまり無い訳で。他の部署を自主的に手伝う事にする。
何、販売経験自体はあるから特に困難と言う訳じゃあ無い。そう思えば不安など無いに等しいわ。そう思いこんで任務開始。


 当日は、そこの店のバイトの他に、別の登録制(=グッドウイルとか)からも一般の販売応援という形で何人か援軍が来ていたが、彼らがまたダラーリとした感じで。
俺だけスーツで、あとは皆スニーカーにネクタイと言う出で立ちに加え、皆手を前に組むのに対し、俺が癖で後ろ手に組む所為も会って、年配の店長などよりも偉そうに見えるらしい。
また、新規オープンだと、活気を醸し出す為に大きめの声で挨拶をするのが基本。
幸いに、俺の声はよく通るみたいで、挨拶をするとそれが店に響いて他のスタッフもつられ、挨拶をする。
それが余計、客に対し俺が偉い立場だと錯覚させたのかも知れない。客も、他のスタッフに尋ねようとしたが俺を見つけ、俺の方に尋ね直すと言う事が幾度とあった。


 そう言えば声を出す、と書いたが。
そう、グッドのバイト、それから本来の(?)バイト、それぞれ全然声出さないんですよ。なんか蚊の鳴くような声。
怒鳴る必要は皆無だけど、それじゃ、ね。
また、商品の陳列は綺麗に揃っているとそれだけで消費者心理に訴えかけ、販売効果が上がる。ユニクロとかセブンイレブンはそうやって実績を上げている。
だから、暇があれば綺麗に整えていたりしたのだけど、そう言う事してんの俺だけなのね。
ま、言われてないからしないだけなのかも知れないけど。ちょっと仕事に対しいい加減だなとは思った。


 開店時は年配の人が多かったが、昼すぎからは客層も変わりだした。
丁度近くに大学があって、春から一人暮らしをするために家族で買い出しに来ている人たちも増えてきた。
何組かの客について、商品を運んだり相談を受けたりしていたが、ふと俺が名古屋に初めて行った時のことを思い出した。
そうだな、あのとき俺も何を買うべきか悩んだっけ。
だから、経験上「これはある方が良い」「これは予算に応じては削ってもいい」などとアドバイスしていた。


 俺は元来、サービス精神が旺盛らしい。
だから、客が「ありがとう」と言ってくれるとやはりそれで嬉しくなる。当初、時間経つの長そうと思っていたけれどそれは寧ろ逆で、時間があっという間に過ぎ去っていった。
気が付けばもう終了間際。結局担当者とは会えなかったなあ、と思っていたら。
来ましたよ。担当者。
「ではこれから説明の方を…」などと言われたって、既に自力で学んでしまっている。
それどころか本来のカーテンだけ売る、という仕事の枠を外れ、独立愚連隊としてほぼ全ての売り場をうろうろとして居た。
流石に俺も苦笑いしながら、「大抵の業務は既に把握してます」と答えると、向こうも苦笑い。
結局、特に問題もなく、任務を終了させる事が出来た。


 時間が長目だったので正直、足腰への負担を懸念していた(事実、足は痛かったけれど)、女の人が重い物もてなくて代わりに運んだり、色々とアドバイスをして有り難がられるのは嬉しかったし、それが楽しさへとつながっていた。
帰路、心地よい疲労を感じながら東海道線に乗り込んで、それが逆方向だと気づくまではほぼ、パーフェクト。
楽しさを見出せれば、仕事って終わるの早くなる物だね。