流浪

 ネットで仕事を探していて、「六本木☆時給1100円☆コンテンツ企画・運営のお仕事!」と書かれているものを発見したのは今を去る事四月の終わり。
募集要項に目を通せば「ホームページ製作とショッピングサイトの運営のお仕事!パソコンが好きな方、ご自分でホームページを製作したことがある方、大歓迎です!お給料はウレシイ『週払い』もOK!」などと書いてある。所謂、WEBデザイナーのような仕事でありながらも、そこまで高い技術を必要とはされてないようだ。
時給も高いし、一応DreamWeaverPhotoshopは扱えるし、早速応募してみようと思い立ったが吉日、申し込んだ。


 間に連休を挟んだ事もあり、締め切りまでの間連絡が取れなくて焦りはしたものの、5/6になって漸く連絡を取る事が出来、その派遣会社への登録を行った。後日、そのクライアントとの顔合わせをする時までに課題であるWEBページを作成するか、自身のHPのURLを教えて欲しいと言われ、日記でこんな事書いてるURLなど晒せる筈もないので、「ではクライアントのHPを見て、それを参考に作っておきます」と答える。
本来5/9からの始業予定であったが、若干遅れる事は止む方無い。
丁度GWの間に仕事を入れる事が出来なかった事も手伝って、かつ、この週払いであるメリットも重なり、なんとか潜り込んでやろうと教えられたURLにアクセスし、そのあまり品の良くないショッピングサイトを参考に不眠不休で課題を仕上げた。


 当初、5/9に連絡する、と言われていたが待てど暮らせど一向に連絡など来ない。
実は、その仕事に応募する裏で、いつも使っている派遣屋から学校訪問という仕事をしないか、と誘われていた。各学校に「学校展」への参加を促す営業だ。
日当もまずまずだし、名古屋に1週間単位で出張もあるなどと聞いていたから土地勘のある俺には最適。ただ、毎日仕事がある訳でもなく、またどの位仕事出来るかは分からないし、単純に一月に貰える金は圧倒的に、WEBの仕事の方が多い。
天秤に掛けた上でこの案件が駄目になった場合の保険としてキープしておいたのだ。その締め切りも近づいていた。
翌日、連絡があったものの、「社長が忙しくて殆ど連絡が取れないが、Wacremaさんの事はお話して置きましたから、日にちが確定したら必ずお電話致します」とだけ伝えられ、尚も仕事の採用に繋がる話は無し。
まあ、忙しいんじゃ仕方ねえと同情したものの、その間は無慈悲にも時は過ぎ行く。学校訪問の仕事は締め切りとなってしまい、丁重に詫びを入れる。


 それにしても、こちとら手持ちもおぼつかない。数えてみれば最後に仕事した日から10日以上も稼働してないのだ。2日に1回仕事に入ったと考えても、ざっと3万近くの誤差が既に生じている。
そして、何とか仕事しようと思っていても、その連絡が来ない限りはこちらも動けない。一応は本命なのだから、その本命が決まるか否かと言う所で、「別の仕事してて駄目です」となるのは莫迦らしいし。
奥歯を噛みしめつ、連絡を待つ。


 しかし、1日過ぎ、2日過ぎと経つ中で、「ひょっとしたら忘れられているのでは無いか」という不安と、「必ず電話すると言ったのだから、忘れるなどとは失礼にも程がある。何よりもそれは企業として責任問題だ」と言う考えとが交互に浮かび上がる。
流石に週末になって「幾ら忙しいと言えど、手前の所で募集しておいて、いざ人が来てこの有様は何だ」と憤りも感じ始め、断りの連絡を入れようと将に電話を手に取った時、電話が鳴った。
「大変申し訳ないのですが、人数の面で今回は…」とばつが悪そうなトーンで謝られる。おい、散々待たせてこの様か。
だが、その電話先の担当者は「ただ、Wacremaさんならもっと高い時給でのお仕事が紹介出来ると思いますので、別の案件をご紹介しても宜しいでしょうか」と続けた。
時給4桁バッチ来ーい! と思ったが自身の技量を遙かに越えた仕事を紹介されても俺が困る。その点に釘を刺し、メールで送られてきたスキルシートを返信した。


 本当なら、5月2週目から俺すっごい忙しいけど経済的には余裕ある筈だったんだよな、とうなだれつつも、交通費などを稼いでおかねばなるまいと思い、いつも使っている派遣屋に仕事の紹介を頼む。
何とか土日、仕事を紹介して貰ったが、後に非常にショッキングな事実をも知らされる。
「5月22日を以て派遣業から撤退します」
…なんですと?
なんだかんだ言いつつも、某大手自動車の新卒採用など良い仕事を紹介して貰ったり、また日払いと言う即効性で多用していたが、いきなり無くなるとは。
狐につままれる思いとは将にこの事。つうかどうすんねん、俺。
「紹介する」と言った仕事はまだ来てないし、取りあえずは、沈み行く船から大急ぎで新しい船に逃げ出さなければならないが、その新しい船をまた見付けるのも一苦労。


 流浪。
まさにその言葉が相応しい。
つうかどうすんねん、俺。
困惑と不安、否応なく差し迫る現実。グダグダしている暇は無い。
けれど正直、頭に浮かぶのは「どうすんねん」、その言葉。
マジな話で、俺の明日はどっちだ!