任務:ポケモンフェスタに従事せよ

Wacrema2005-08-23

 早朝5時。目覚ましがけたたましく鳴る。
ロクに寝てない頭を覚ます為にシャワーを浴び、アイスコーヒーと共にパンを流し込んでからバイクに跨り、早朝の本牧を抜けて桜木町に向かう。
この土日は、朝6時半から夜の6時半頃までの延べ12時間に渡り、「ポケモンフェスタ」の仕事に赴いてきた。
来場者数も多く、また従事したスタッフの数も多かったので、ひょっとしたらこれを読んでいる方々の中には覚えがある方がいるかも知れない。


 貰う金を拘束時間で割ると、なんと時給600円台という莫迦らしさだが、余裕の無い今贅沢も言ってはいられない。
集合場所に着くと、既に20人以上の人間が集まっていた。派遣の社員から仮リーダーの様な役目を請われ、彼らをパシフィコまで引率する。
現地に到着すると、他の派遣などから来たであろう、白いTシャツにベージュのチノパンという同じような服装をした者達が200人は集まっていた。これだけの数、同じような服装をした人間がいると言うのは気色が悪い。


 手続きとチーム分けを終え、中に入る。既に会場待ちの客が数十人ほど列を作っている。お前ら何時から並んでるんだよ。
俺(達)の役目は場内誘導と言う名の、忙しい所を転々としサポートする仕事だ。
まずは、開場し混雑するチケットカウンターの整理に当たる。このイベント自体は無料なのだが、グッズが貰える縁日に参加するにはその金券チケットが必要となる。
あれよあれよと言う間に、そのカウンターは大混雑。ジグザグに這わせた誘導ロープも足りなくなり、急遽延長をしたり、一歩詰めて並ぶようお願いする。
正直な所、ポケモンなんてもう古いのかと思っていたがそんな事は無く、来場者数は延べ5万人以上に渡り、また子供連れだけではなく、中学生や高校生、またどう見ても成人式を疾うに終えたような「おおきなおともだち」も多数見受けられた。


 その仕事が終わると、今度は飲食ブースの出口で客が入らないようにする。
入り口は相応の混雑をしているから、出口から入って席確保しようと言う客が少なからず居り、そうさせない為の任務だ。
飲食メニューを見、ポップコーンが千円という巫山戯た値段に驚きつつも、「俺の目の黒い内は何人たりとも入れさせん」と、確率変動状態の川口能活ばりに守護神ぷりを披露。
と、その時「あれ?WAC?」と声が。
振り返ると小学校以来の友人が子供を連れて遊びに来ていた。
「お前なにしてんの?」「見りゃ分かるだろ、仕事だよ。奥さんはどこ行った」「あいつ今日は来てない」などとちょっと会話を交わし、折角なので、と何が折角かは良く分からんが一緒に記念撮影をする。
ピカチュウのサンバイザー姿の俺の出で立ちを「柄の悪いポケモン」などと評されたのち、業務中であるから、と立ち話も早々に切り上げると、丁度新たな任務が。


 混雑している飲食ブースで、食べ終わったり、また席に荷物を置いていたり、ゲームだけしているような客をやんわりと追い出す仕事。
飲食ブースの中はお昼時である事も手伝い、食べ物を買ったにも関わらず座れずに居る人達と、早々に座ってだらだらしている人達との間で異様に殺伐とした空気が流れている。
その中をメガホンで、言葉は丁寧にだが語気を強くアナウンスしていると、食べ終わってだらだらとしていた人が出たり、荷物を椅子の下に仕舞う人が出始めたのだが、依然としてゲームをしている人らはどこうとしない。


 タチが悪い事に、彼らは何も飲食物を買わず、テーブルを占拠した侭聞く耳を持たない。その様子に他の客からも「あれなんとかしろ」とクレームが来る始末。
「少々お待ち下さい」と客に返事をしつつ、そのゲームばっかしてる者達のド真ん前で、彼らを見ながらアナウンスをしてみる。案の定、彼らは無視。ならば。
「お客さま、申し訳御座いませんが飲食をなされないのであれば他のお客様に席をお譲り下さい」と直に言ったところ、「今食事してる」との返事が。無論、テーブルには荷物とゲーム機しかない。
思わず、「へー!?今食事なさってるんですかぁ!?」と大げさに驚き、口元だけ笑って睨み付ける。こちとら寝てない上に手前らみたいなの大嫌いなんだ。やるならやるぞコラ?
すると、「今、買いに行ってる」と慌てて答えるので俺も負けじと、「おや、その方のお席は無いようですねえ?どうしたんでしょう、可愛そうに」答えると、彼らの内のリーダー格らしき人物が無言で出よう、とジェスチャーをし、足早に去っていった。
側でなりゆきを見守っていた家族連れに「お待たせいたしました」と普通の笑顔で席を作り直し、案内する。
その後暫く、食べ終わった客を暗に急かしたりなどして彼らからの憎悪に似た視線を浴び、時には聞こえよがしに舌打ちされながらも、「知るか莫迦」とスルーしていた所で漸く、俺も飯休憩の指示が下る。


 すると丁度、かつて一度だけ仕事を共にした事のある、司法試験を目指していると言う人と飯を食う事に。
彼はその時から同じ法律を学んだと言う事もあってか妙に俺の事を慕って呉れており、会話は弾む。
また、俺はあまり内輪で何かするのも好きではないので、一緒に飯休憩に入ったチームの人達に話を振る内に、話の輪は大きくなり暫し賑やかなテーブルとなる。
こうして、例えかりそめであっても和気藹々と飯を食える事は楽しくもある。そういえば、こういうのは久しぶりかも知れない。
楽しくしていれば時間は過ぎるのも早く、あっという間に任務開始の時間。


 次は、キャラクターショーで溢れる人を整理する係に。
観覧する人が多すぎるのでロープを自分の腕に括りつけて、通路を確保するのだが、どうも子供と言うものはロープがあるとぶら下がりたくなるらしく、ぶら下がれる度に腕をロープが締め痛みが走る。
その都度、わざとロープを軽く振ったり引っ張り直したりして驚かせ、振り落とす。
やがてショーが始まれば、子供達はそちらに釘付けになるので、それまでの辛抱。
俺もついでにキャラクターショーを見てみる。「いかにも」と言った感のある声を出す女性−恐らくは声優なのだろう−のボディラインをチェックし、挙げ句の果てに「あー、あの子便秘なんだなあ」と余計な所まで気付くような、極めて不純なショーの見方ではあったが。


 午後は、そのショーの手伝いと、それが終われば忙しそうな所、人の多い所の誘導をローテーションで行う筈だったのだが、午後2本目のショーの前に突然、「急遽あなたにお願いしたい事がある」と、緊急依頼が。
なんでも、ショーの最中に火の点いた煙草を子供の腕に押しつけようとした輩が居たらしく、そう言った輩が居ないかどうかを客席のど真ん中から監視する任務だ。
俺自身、そう言う輩は大嫌いなので二つ返事で承諾。観客席のド真ん中に陣取り睨みを利かす。
かつて(2004年2月13日の日記参照のこと)、似たような事があった事を思い出しつ、今度こそは「行動したい、と決意を密かに胸に抱く。


 ショーが始まると子供は大興奮。その熱気と歓声に気圧されそうになる。なるほど、外側から見た時は分からなかったが、こういった状況ならば混雑に紛れ不埒な悪行を働くのも容易そうだ。
このショーも、家族連れや子供達ばかりではなく、ちらほらと「おおきなおともだち」が混ざっている。
全くの偏見で以てそう言う人達と、そしてDVの可能性も視野に入れ、家族連れの中でも「DVしそう」な人達を中心に、危害を加えるような行いをしないかどうかをチェックする。
俺は目が悪く、また目つきも悪いので、幾人かのお客さんには訝しがられたようだったが、子供に何かあっては一大事だし。
それが功を奏してかどうかは分からないが、以降はそのような苦情も、また発見報告も無くなった。
犯人を捕まえる事が出来なかったのは残念だが、被害が無くなった事自体は嬉しくもある。


 延べ二日間に渡り、大凡このような仕事をしてきた。
このイベントは全国9カ所で行われ、しかも開場は相応に大きな所ばかりである。
具体的な動員数は横浜しか知らないのだが、大凡、一会場あたり3〜5万人近い動員が見込まれたとなると、延べ30万から40万近い数だったと推測される。
これは、ゲームとしての成功もさながら、キャラクタービジネスとしても成功したからこそ叩き出せる数字であると言えないだろうか。
ポケモン関係は、今は「株式会社POKEMON」と言う会社が一手に引き受けているが、現在公表されている資本金は3億6540万円。
総売上高は公表されていないが、設立当初は6000万だったのをここまで増資出来るのも頷ける。
それを遅ればせながらこの目で体感出来た事は感慨深かった。
まあ、最初にも書いた通り貰った賃金は拘束時間と比較すれば莫迦らしくもあるのだが、それは派遣屋の問題になるからこれ以上言う事も出来まい。恐らく、株式会社ポケモン側からは一人あたり時給千円程度は確実に支払っているだろうから。