気がつけば、上野

今年も、桜木町で行われているポケモンのイベントに仕事に行って来た。
拘束時間が長い訳に給料は高くなく、正直パスしたいとは思っていたが、贅沢も言えないし、人が集まらず困っている半ば事務所の面子を立てる為にも、と。


寝苦しさも相俟って殆ど寝る事が出来ないままに、集合場所に到着。俺が配属されたのは宝探しのコーナー。
そこは砂場に隠された宝物−主にポケモンのガチャガチャだか偶に任天堂のDSなどの引き換え券が入っている−を探すアトラクションで、俺の仕事は客が掘り出した後、また宝を埋めると言うものだったが、後に、俺の声のでかさを買われ更に案内誘導や呼び込みまで任される。


一日中砂の上で動き回っていたら当然、体力の消耗は激しい。
「これどんな筋トレ?」と思ってはいたが、嫌な顔を客に見せる訳には行かないし、また別に、客が喜び顔を綻ばせるのを見るのは嬉しい。
大変だし給料が安いのだけど、イベント系が好きなのはこういう醍醐味があるからだ。


ヘトヘトになりつも仕事を終え、同じ事務所の顔馴染みの同僚達と珈琲でも飲んで行こうか、となった所からが本題であり、そして俺の失態の始まりでもあったのだ。


普通にアイスコーヒーを飲んで、軽く喉を潤して帰るつもりが何故、普通に桜木町の居酒屋でジョッキやら久保田やら空けているのかしら?


相応の年齢の人なら誰しも経験があると思うが、疲労している時や空腹時に酒を入れると回りが早い。重複していれば尚更だ。
自分でも大して多いとは思わぬ酒量だが、「酔っているな」と認識し、翌日に仕事を控えた面子もいることから、そろそろ帰ろうか、と皆を促したのが23時ちょっと前。駅で明日も仕事があるヤツらに頑張れよと声援を送り、千鳥足で大船方面への電車に乗り込んだ。
空席を見つけ椅子に凭れていると、次第に意識が薄らいで行くのが分かった。


 で。ふと目を覚ますと「上野〜」とかアナウンスしている訳で。
酔いどれの不明瞭な意識ながらも、こりゃヤバい、と横浜方面への電車に乗り換えようとするも、既に終電が出た所。少しでも横浜に近づく為に山手線に乗ったがこれも判断ミス。
品川で降ろされ身動きが取れなくなる。


 雨が降りそうだったので、とりあえず雨露を凌げるような所−ビジネスホテルやカプセルホテル、或いは漫画喫茶など−を探すもホテルは満室、漫画喫茶は看板すら見つからない。
やむを得ず品川駅構内に舞い戻り、俺と同じように家路に就けなかった、等間隔で横たわっているサラリーマン達の仲間入りをする。
電話で友人と話しながら始発を待とうと寝転んですぐ、見回りの警官から「ここは出入り口なので…」と大変申し訳無さそうに注意を受ける。
高圧的に出られたら気分も悪くなるけれど、ああも申し訳無さそうに言われたらこちらも「いや、申し訳ない」と移動せざるを得ない。
疲れて痛い足を引きずりながら少し移動しまた寝ころんだものの、今度は風の所為か、はたまた体調の所為か寒気を感じ始めてきた。
直感的に「こりゃ拙い」と思い、また話していた友人の薦めもあり、結局はタクシーで家まで戻る事に。
まあ、スロ打って負けたと思えば良いよね…良いよね! と自分に言い訳をしつつ、首都高湾岸線を飛ばして貰う。
流石に平均130キロで走った事はある。良い夜景を眺めていたらあっという間に家に着いた。


 風呂に入り、ベッドに倒れ込んでそのまま意識を無くし、起きたら既に夕方。
体中の筋肉があちこちで悲鳴をあげ、最初は起きる事さえ侭ならなかった。
今日は俺は仕事を入れて無かったけれども、昨晩のタクシーの件と言い、流石に俺、何やってんだか、と思わなくも無い。