FCバルセロナ vs クラブアメリカ

Wacrema2006-12-15

 タイトルの試合に行って来ましたよ。
…ええ、仕事で。


 元々、場内整備の仕事は拘束時間と給料のバランスが悪い上、引いていた風邪も治りきっておらず、氷雨降る中で濡れ鼠のようになって仕事をする事に抵抗はあったが、先日書いたように今は仕事を選んでいる場合ではないし、会社からも人が足りないので大変困っていると言う話を聞き、承諾。


 昼過ぎ、指定された集合場所に赴くと、ウチの会社だけでなく他社数社もそこを待ち合わせ場所にしており、様々な人たちがいる。
「F社 さいたま支店」などとプラカードを持っている人もいて、そんなに遠くから来てるのかと驚かされる。
中には不要なほど大きい荷物を持った人達も居た。顔には無精髭を生やしており−基本的にヒゲはサービス業には相応しく無いはずなのだが…−それは以前テレビで見た、漫画喫茶で寝泊まりしつつ現場を渡り歩いている人達に相違無いだろう。
ただ単に俺は幸運にも家があるだけで彼らと隔てるものは何もない。
そして、彼らの姿、現状は決して自己責任と言う簡単な言葉だけで説明出来るものではなく、また、企業や政府の方針如何によって今、自分は関係ないと思っている人たちにも訪れ得るものなのだ。
事実、ウチの会社の知り合いにも一人、個人ではなく企業の都合によって俺と同じような身分に身を窶した人を知っている。


 日産スタジアムに着き、客席上にある通路を歩いていると、様々な派遣会社の名前が書いてある受付所にたどり着く。
あまりに多くの会社名とボックスがあるその光景は、「企業展」などの様子を思い起こして貰う方が想像に容易いだろう。
その周りにまた、大勢の人たちが受け付けをしていたり、指示待ちをしたりなどして溜まっている。
俺も、その中の一つであるウチの会社のボックスに顔を出し、配属先を聞いて待機する。


 他のスタッフが雨の中、安物の雨合羽を着て外に立つ一方で、俺が配属されたのは幸いに雨風の凌げる超VIP用の駐車場だった。
助かった。正直、外なら肺炎になるかもとすら心配していた。
ライトに照らされると光るベストをスタッフジャンパーの上に着て、スターウォーズに出てくるライトセイバーみたいな紅く光る棒を持つ。
流石は超VIP。車は皆一様に黒塗りのクラウンかセンチュリー。
例外は大使館ナンバーの車くらい。
その中の一台を駐車券の確認をしようとしたら、フロントガラスの所には駐車券の代わりにエンブレムの中に「呂」と書いてあるステッカー(冒頭の画像参照)しかない。原則として券のない車は入れさせないのだが、後続の黒塗り8ナンバー、屋根の一部から何かが出る車から「(その車を)入れて下さい」と言われたので通す。


 基本的に外の一般駐車場と違い、台数自体が少ないから仕事は暇。
なので、先ほどのエンブレムは何を意味しているかを考えていたら、俺は勘違いしていた事に気づいた。あれ呂じゃないよ。宮だ。
日本の公共機関で「宮」ってついて黒塗りの車…。ああ、皇室ね。だから警察が張り付いてたのね。


試合が終盤に近づくと、 配置転換を命じられた。
次の場所は…関係者出入り口。
試合が終わり出て来る関係者、車を誘導するらしい。
なんで俺なのか分からないが、失礼無きよう気を遣ってアテンド。
皇族の方々や大使館員、サッカー協会の重鎮、トヨタの重役、そしてFifaや選手達の家族、今日は試合のない他チームの選手達。日本人だけでなく、いやむしろ外国の人たちの方が多かったろうか。
英語ではない言葉で挨拶をされ、困った挙げ句日本語で挨拶し深々とお辞儀して見送ったり。
それにしても、やっぱり皆、良い物着てるね。仕立てが違うや。


 関係者出入り口での仕事が終わり、持ち場に戻った所で帰投の時間。電車の都合で早めに帰る事を担当に伝え、荷物を取って競技場を出る。
まだ一部のスタッフは働いているので、ウチの会社の人でなくとも、「お疲れ様です」と声を掛けながら外周を歩いていると、何人かの人が固まってずっと一点を見ている。
何かしらん、と思って近づいてみると、そこは俺が先ほどまで居た関係者入り口が見える所。
どうやら、出待ちをしているようだ。
そばに居たバルセロナのタオルを首に巻いた人に試合の結果を聞くと、バルサが勝ったと言う。俺が着く前にクラブアメリカの選手を乗せたバスが出たと言うから、まだバルサのバスは出ていないだろう。
−見られるなら、見たい。
試合に来たのに結果を知らないのを訝しがられたので、「ついさっきまでそこで仕事してきた」などと話すと、「誰か見ました?!」と目を輝かせて問われるので「川淵会長とか皇族の人とか、あとFIFAの人見たよ」と何の自慢にもならない事を話す。
傘も差さずずぶ濡れの、関西からわざわざ来たと言う二人組の女性に対し、「バス見たいんでしょ? ここだと場所悪いよ」と、俺がもと来た道を少し戻り、ぎりぎり一般の人が来られる場所まで案内し、暫し待つ。
程なくしてバスが俺たちの目の前を通った。ロナウジーニョ、多分メッシ、多分デコが居たので軽く手を振る。てかジーニョだけ分かった。
バスが過ぎてからも興奮の醒めやらぬ二人に「風邪引かないようにね。横浜楽しんで行ってくださいね」と告げて駅までの道を行く。


 駅までの道には競技場から出てきたバルサのファンが数多く歩いており、彼らは雨具を持っていない人たちも多かった。
師走の氷雨。幾ら興奮で体が火照っているだろうとはいえ、その冷たさは体を刺すだろう。
彼ら、彼女らが風邪引かないと良いんだけど、と赤の他人の健康と、俺自身の終電を気にしながらとことこと歩いて行った。
いつもなら受けぬサッカー場の案内誘導。今回に限っては色々とあって楽しかったよ。
ただ、どうせならやはり客として中に入り、試合の展開に一喜一憂したいとも思うが。