「お話の続きを書け」という依頼を受けて

 こんばんは、Wacremaです。
過日、5号機の「怪胴王」を、これディスクアップとかみたいでじわじわ面白いね、などと打っていると、友人から「このお話の続きを書いて」という依頼が舞い込みまして。
こら面白い、と軽く乗ったは良いけれど、想定外に広がってしまってメールで返せなくなってしまったんですわ。
いやマジで、最初子供向けのショートストーリーになる筈だったんだけどねえ…
ちう事で、ここを使ってそのお話の「続き」を書きましたよ。


ある国に、心の美しい王子がいました。
王子は、「雪の魔女」と呼ばれ、人々から恐れられている魔女と、密かに愛しあっていました。
ところが、王子は父親である王様から、雪の魔女と会うことを禁じられてしまいます。

それを知った雪の魔女は、王子に氷の魔法をかけてしまいました。誰にも邪魔されず、いつまでも王子と一緒にいられるように、自らにも魔法をかけます。
氷の身体になって、深い眠りについてしまった王子と、雪の魔女。
二人は寄り添うように横になり、決して離れることはありませんでした。

それを知った隣国の美しいお姫様が、王子を探しに行きました。そして王子にかけられた魔法を解くことに成功しました。
お姫様は雪の魔女が二度と生き返らないように、氷の身体を細かく砕いてバラバラにしてしまいました。


 原文はここまでで、これ以降を書くよう言われたのね。こっからが俺が考えた「続き」ですわ。


 目を覚ました王子と、美しいお姫様は、お城へ帰って行きます。
お城に帰ると、王様はお姫様を連れている事を大層喜びました。
「よくぞ隣国の姫君を連れて帰った。これでゆくゆくは隣国も我が国のものになる」
そうです、王様は王子の事を考えて喜んでいたのではありませんでした。
お姫様は王様の話を聞いて「ええ、お互いの国がこれからも仲良く出来ますように」とにっこりと微笑みを浮かべました。
その時王子は、何も考えてはいませんでした。
実は魔女の魔法が解けたように見えて、実は心がまだ凍っていたのです。凍てついた心には、誰の言葉も届きませんし、また自分の言葉も凍ったままでした。


 暫くして、王子とお姫様の結婚式が盛大に行われる事となりました。
領地の人々からは「結婚式のためだ」とお金を取り、そしてお金を出せない貧しい人々は代わりに王子の為の新しいお城を造る事を命じられました。
人々は、苦しい思いをしながらも、王子と隣国のお姫様のためにとお金や、力を出しました。


 一方、お姫様は王子と暮らし始めて、王子の心が凍っている事に気が付きました。
しかしお姫様は、これを悲しいことと思うどころか、むしろ好都合と、王子が自分の思い通りに動くようにし始めたのです。
誰か他の人のいる前では大人しく微笑みを絶やさずに、心優しく美しい姫を演じ、しかし他の人がいなくなると人が変わったかのように冷たく王子に接するのでした。
心の凍った王子は、もはやお姫様の命令に従うしかなかったのです。そう、王子はお姫様の人形となってしまったのでした。
お姫様は時折一人になると、「王様はわたくしの国をお奪いになるつもりだったのでしょうけど、残念ね。わたくしがこの国を奪うのだから。王子が凍っている、と聞いた時は恩を売るつもりだったけれど、今は最早この様子だし他愛もない事だわ。」と、思い出しては笑うのでした。


 数ヶ月のち、新しいお城が完成するのを待って、結婚式は行われました。
その頃、王様は体の調子を崩してしまい、自分の足で立つ事すら難しい様子でしたが、それでも隣国の王様や貴族達を招待し、王子の為の新しい綺麗なお城で、それはそれは盛大に行われたのです。
世界中から取り寄せた美味しい料理と美味しいお酒を振る舞い、普段から美味しい料理には慣れている王侯貴族達も、さすがは王子の結婚式と驚きの声を上げました。
隣の国から招待された王様達でさえ、「ここまでの規模で自分の国はする事が出来ない」と悔しい思いをした程でした。それは王様の思惑通りであったのです。
王様は王子の結婚式を、王様の自慢の場、いかに自分の国がお金持ちかを見せびらかすかと考えていたのでした。
この結婚式のために、お金を出したりして苦しい思いをした民衆達でさえも、今日ばかりはその華やかさに見とれておりました。
やがて結婚式もたけなわ、夫婦の誓いの口吻をする段となりました。
王様もお姫様も、「これが済めば隣国はやがて自分のものとなる」と、大きな期待を込めながら、その瞬間が来るのを待ちわびていました。
しかし、宣誓のさなか、王様が急に倒れてしまったのです。
結婚式は一転、大混乱となりました。「魔女の呪い」だと叫ぶ人もいました。


 大騒ぎの中、王子は「魔女」という言葉を聞きました。
何ということでしょう。人々が「魔女」と言ったその言葉が、王子の心にかかっていた魔法を解いたのです。
王子は急に体が温かくなるのを感じ、そして、今、自分が何故、ここにいるのか分かりませんでしたが、王様が倒れているのを見ると速やかに寝室へ運ぶように指示し、お客さん達をもまた、それぞれの家や部屋へと戻らせて混乱を収めるように指示しました。
その様子に驚いたのはお姫様です。
王様が倒れたからではなく、今までずっと人形のように扱ってきた王子が突然、自分からあれこれと指示をし始めたからです。
お姫様はその場で、弱々しく倒れこむと、気分が悪いと部屋に戻りました。もちろん、色々な事を計算しての事ですが。


 ひとまず混乱を収めると、王子は魔女と会って居た時以来の記憶がありませんでしたから、側近の者達から今までにあったことを聞き出しました。
側近たちは、一体どうしたことかと思いましたが、王子がしばらく行方知れずだったこと、お姫様を連れて戻った事、人が変わったかのように何もしゃべらなくなっていた事、王様が体調を崩した事、今日が結婚式だったことなどを話しました。またその他に、今まで王様の食事は召使いではなく、お姫様が「これからお父様となる方ですから」と自ら運んでいた事なども話しました。
王子は王様の食事を調べるように、また結婚式を王様が回復するまで中止する事を発表するように言いました。
そして、自分はまた暫く心が凍っていた時のようにするから、秘密にしておくようにと厳命を出しました。


 明くる日、お姫様は王子の部屋を訪れると、最初は大人しく丁寧に話しかけましたが、王子がぼんやりと中身の無い返事をしながら遠くを見ているだけなのを見ると、おもむろに王子の髪の毛を掴み、床に転ばせました。そして、「この国を手に入れるのが少し先になってしまったけど、まあいいわ。王子がこの様子なら問題は無い訳だし」と、王子を踏みつけながら呟きました。
「これは昨日、わたくしを驚かせてくれたお礼よ」と、王子のお腹を蹴飛ばすと、お姫様はまたお部屋に戻っていきました。
お姫様が去ると、王子はお腹をさすりながら立ち上がり、ベッドの下に「聞いたか」と声を掛けました。
ベッドの下から、執事が這い出してくると、「許せませぬな、王子に対しあのような振る舞い!」と拳を振るわせながら怒りを露わにしていました。
その時、宮廷医が慌てて部屋に入ってきました。
「王子、仰られていたように王様の食事に毒が入っておりました」と報告すると、王子は「わかった、ではこれから、このようにしろ」と小声でなにやらひそひそと執事と宮廷医に伝えました。


 夜になると、王子はお供も連れずこっそりと、しかし大急ぎで出かけました。魔女の事が心配で堪らなかったのです。
魔女の家に着くと、家は真っ暗でした。家の中は埃くさく、様々な器具が置いてある机や、沢山の本が並ぶ本棚にはうっすらと埃がつもっていました。
ランプに火を灯して、最後に会っていた部屋に向かうと、そこにはきらきらと光る沢山のものが散らばっていました。
最初は何か分かりませんでしたが、少し大きめのかけらを拾って眺めると、王子は全身の力が抜け落ちてしまいました。
「ああ、何という事だろう」
きらきらとランプに照らされて光っているのは、魔法の所為で今も氷り続けている魔女のかけらでした。
王子は涙に暮れながらそのかけらを一つ一つ、それこそ砂粒一つほどのものも丹念に集めました。
周りが暗いので、氷のかけらは光に当たるときらりと輝き、探しやすかったのは幸いでした。
とてもいっぺんには持って帰れないので、そばにあった袋に詰め、残りは後で持って帰る事にしました。


 朝が来ました。
王様の朝食の用意が出来たので、召し使いはいつものようにお姫様の所にその事をお伝えに行きました。お姫様がいらしてから、ずっと「王様の食事が出来たらわたくしが持って行くからお呼びしてください」と言われていたからです。
お姫様は部屋から出ると、召使いから料理を受け取り、そのまま召使いを帰して一人、王様の部屋に向かいました。
途中、誰も周りにいないことを確かめると、お姫様は胸元から紫色の小瓶を出して料理に振りかけるとすぐ、また何事も無かったかのようにそれを仕舞いました。
王様の部屋の前に立っている衛兵に挨拶をすると、衛兵はドアを開けて宮廷医を呼びました。
宮廷医は「王様は容態が優れませぬ。お食事はお預かりしておきます故、今はお引き取りを」と、食事だけ貰ってドアを閉めてしまいました。
心配そうな顔を浮かべながらお姫様は部屋に戻ると、堪えきれなくなって大笑いを始めました。
すっかり楽しくなったお姫様は、王子のもとを訪れました。
衛兵に分厚いドアを開けさせ、中に入ると、いつものように虚ろな目をした王子が座っていました。
お姫様は鼻歌を歌いながら王子に近付くと、「王子様、今日は朝から何だかとても楽しうございますわ。王子様もわたくしを楽しませていただけますわね?」と、王子の耳を引っ張って話しかけました。
「さあ王子様、ひざまずいてくださいな」
王子は虚ろに返事をすると、一瞬ためらった後、お姫様にひざまずきました。
「うふふ、愉快ですわ」
ひざまずいた王子様の頭に足を乗せ踏みにじりながら、お姫様は高い声で笑い続けました。
その時お姫様は気が付きませんでした。うつむいている王子の目が、鋭く爛々と輝いていたことを。


 お姫様が部屋に戻ってから暫くして、侍従の一人が紫色の小瓶を持って王子の部屋を訪れました。
「やはり姫様が毒を盛っていたようです。この小瓶の中身を食事に入れる所を、仰った所に伏せていた者が見ました。」
王子が以前、ひそひそと話していたのは、このことだったのです。王子は、お姫様が毒を入れていると思って、王様の部屋に行く廊下の天井や窓の外など、至る所に監視を付けていたのでした。そして、監視はお姫様が小瓶から何かを料理に振りまいていることを知ると、その小瓶をすり替える為に、お姫様が王子の部屋に来ている間に探していたのでした。
宮廷医が瓶の中身を調べると、やはり砒素という毒薬でした。
さっそく王子は、お姫様に、王様の容態が悪くなったから部屋に来るようにと伝言をし、自らも王様の部屋へと向かいました。


 王様の容態が悪くなった、と聞いたお姫様はすぐにも踊りたいような気持ちで王様の部屋に行きました。もちろん、顔は心配そうな表情を浮かべています。
王様の部屋に入ると、お姫様の想像していたのとは違い、王様は体を起こしておりました。ベッドの横には王子と執事が立っています。
衛兵がドアを閉め、そしてお姫様を後ろから押したので、お姫様は転んでしまいました。
乱暴に叱りつけたいのを抑えながら、あくまでもか弱く「痛い」と座り込んで居ると、突然王子が「もうそのような演技はせずとも良い」と話しかけて来ました。
お姫様は一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。何よりも、王子がそのような口調で話しかけて来たのは始めてだったのです。
今まではずっと、お姫様にとって王子は心の無い人形のようでしたから、無理もありません。
お姫様が驚いていると、王子は「姫、この瓶を私の部屋に忘れていったぞ」と紫色の小瓶を見せました。
「部屋に置いてきたはずだったのに、わたくしとしたらうっかりしていた」と、今まで浮かれていたのはどこ吹く風。すっかりお姫様は顔が真っ青になってしまいました。
「そなたが王の食事にこの小瓶の中身を振りかけていたのは知っている。ずっと見張られていたのは気付かなかったか?」と王子は問いました。
お姫様は見張られていた、と言う事に気が付かなかった事を悔やみながらも、「それは、当家に伝わる長寿のお薬に御座います。王様のお具合がよろしくないので、勝手ながら入れさせていただきました」と言いました。
「薬ならばそなたが飲んでも大丈夫だろう。」と、王子はその小瓶の中身をそばに置いてあった葡萄酒に入れると、衛兵に命じてお姫様の両腕をしっかりと掴ませ、お姫様に無理矢理その葡萄酒を飲ませたのです。
慌てたのはお姫様です。ずっと自分が入れ続けて来た瓶の中身を飲まされたのですから。
手を離された瞬間に、喉の奥に指を入れそれは必死に吐き出しました。そうしなければ自分が死んでしまうからです。
「そうまでして吐き出すと言う事は、これは毒なのだな?」
王子は指先でくるくると小瓶を回しながら、また衛兵に命じ腕を掴ませ、残った葡萄酒を飲ませ、こう言いました。
「さて、姫。私は砒素の解毒剤を持っている。そなたが言う事が真なら、このままでも死ぬ事は無いだろう。しかしながらこれが砒素だったとき、一刻を争う。改めて問うが、これは薬なのだな?」
お姫様は、掴まれた腕をふりほどこうと暴れますが、屈強な衛兵数人がかりで掴まれては振り解くどころか暴れる事もままなりません。必死に、「いえ、それは砒素で御座います。ですから早う、解毒剤を」と叫びました。
「父上、いえ王よ。お見苦しい所をお見せ致しましたが、真実はこれにございます。」と王子は王様に告げ、衛兵には「姫を、いや王殺しの容疑者を牢屋へとお連れしろ、丁重に」と命じました。
「解毒剤をお寄越し!早く!」とお姫様が半狂乱になって叫ぶのを聞くと王子は、「ああ、そもそもこの瓶には毒など入っては居らぬ。従って解毒剤など必要ない。」と、冷ややかに言い放ちました。
お姫様は「このわたくしを騙したな!」と叫び、さながらお姫様は鬼のような顔となっておりました。
王子はひるみもせず、「それよりも、この私をあしげにし、ひざまずかせた屈辱は忘れぬぞ」とお姫様を見据えると、鬼のような顔をして叫んでいたお姫様も王子の氷の様な目に鳥肌を立て、そして、自分がこれからどのような拷問に遭わされるのかを考えるとすっかり体の力が抜けてしまいました。
衛兵達は、お姫様をずるずると牢屋へと引きずって行きました。


 お姫様が連れ去られ、王様の部屋には静寂が訪れました。
「さて、王よ。王はかつて、雪の魔女と会う事を禁じ、そして隣国の姫君を娶る事をお望みだった訳ですが、お命が狙われてもなお、そうお望みか」
王子の問いに、王様は「あのような女だと分かって居れば、望みなどしなかったわ!」と、病に弱りながらも猛々しく怒鳴りました。
「左様にございます。人間の真価は容貌、身分など表の美しさにあらず。そのようなものに囚われず内を見抜く事こそ肝要。」
「知った様な口を聞くでない。第一、女など飾りと子作りの畑に過ぎぬわ。」
「なればこそ、見目麗しいだけの女を私の妻にとお思いか。挙げ句、殺されかけては笑い話にもなりませぬな。」
「黙れい!」
王様は激昂すると、そのせいで大きな咳を続けざまにしました。宮廷医が王様を寝かせます。
「王が如何に思うて居るかは存じませぬ。しかし、血を分けた息子といえど、己と他者が全く同じ事を考えているなどとは思わぬ方が宜しい。少なくとも私は、女を飾りとも畑とも思う程浅慮ではありませぬ。」
「王子よ、お主…変わったな」
「如何変わりましたか」
「その、何だ。先ほどの姫に対する扱いと言い、口ぶりと言い、冷たくなったな。」
「それは今もなお、私の心の一部が凍てついて居るからでございましょう。王よ、陛下の粋なはからいのお陰で。感謝しておりますよ。」
王子は王様に対し冷ややかな笑いを浮かべると、王様は急に具合が悪くなった、と王子を追い出し寝込んでしまいました。
先ほどお姫様が感じたものを、王様もまた感じて急に寒くなってしまったのです。


 王様が倒れてから、王子は王様の仕事をするようになっていました。
王様は大抵いつも、偉そうに椅子に座り、時折誰かが持ってくる書類に、目も通さず判子を押すくらいしかしておりませんでしたが、王子はそれ以外にも自分で国の書類や本に目を通したり、或いは話を聞いたりなどしておりました。
中でも、先日行われるはずだった結婚式に関する書類を見た時には、王子は怒りすら覚えました。
と、言うのも常々街の人たちから沢山のお金を税金として取っておきながら、更に結婚式だからと言ってお金を取り、それをただ王様や貴族達が贅沢する為だけに使って居たからです。
王子は、以前からこっそり一人で街に出て、街の人たちとふれあいを持つ事が多くありました。あの魔女と知り合ったのもこのときでした。
ですから、街の人たちが高い税金で苦しい生活をしていることは十分に知っていましたし、何とか人々の暮らしを楽にしてあげたい、と思っていたのでした。
それなのに、自分の結婚式、それも自分に覚えの無い結婚式で、沢山のお金を人々から取っていた事に、人々を苦しめてしまっていたことに、怒りと悲しみを覚えたのです。
「王は人々を苦しめて成り立つものではない。民の人々があってこそ王が成り立つものなのだ」
王子は、日に日にその思いを強く思うようになって行きました。


 昼は王様の仕事と勉強をし、時々街に出ては人々の声を聞いてまわりました。
少しでも多くの、そして色々な人の話を聞き、少しでも良い国にしたいと思ったからです。
まだ、王子は正式に王になっていた訳ではありませんが、人々は今までの王様とは違い話を聞いてくれる事に親しみを覚え、今の王様より王子に早く王様になって欲しいと言う人すら現れるようになりました。
そして夜になると魔女の家へと向かい、ランプを片手に、砂粒のようなものでも氷のかけらは無いかと探し、そして探すのに疲れると本棚にある錬金術や魔法の本を読みふけっておりました。朝が近くなると、氷の固まりを入れた袋を持ってお城に帰っていくのでした。
ですから、王子は殆ど寝る暇がありませんでしたが、王子は自分の目的の為に休む事をしませんでした。


 やがて、王様の容態も回復して王様自身が仕事出来るようになりました。
王子はもう王様の仕事を全てする事は無く、余った時間を領地の人たちを訪れる時間に費やす事が出来ました。
また、王子は牢屋に捕らえていたお姫様を隣国に帰しました。
本来、王様殺しの犯人ですから、死刑も免れぬところでしたが、王子が「外交上の問題もあるからつぶさに死刑には出来ぬ」と猛反対をしていたのです。そして、王様の復帰をきっかけに恩赦として牢屋からお姫様を出し、その旨を隣国にも伝えていたのでした。
王子が失礼の無いように、とはからったお陰で、お姫様は牢屋である事以外には不自由の無い生活をしていましたが、「この屈辱は忘れぬ。近い内に必ずや攻め込む故覚悟せよ」と言い放ちました。しかし王子は「やれるのならどうぞ」とあっさりと受けたのでした。
そして夜になると、自分の体を切り血を流して、あの魔女の氷のかけらに血を塗り、一つ一つくっつけ始めたのでした。
それは魔女の家にあった魔術の本、錬金術の本から学んだ事でしたが、実に根気の要る大変な作業でした。
昼は領地をまわり、夜は血を抜き魔女の体を作って行く内に、王子の体はやせ細っていき、顔色はどんどん青白くなって行きました。
王子が弱っていく様子を領地の人たちは大変心配し、訪れてきた王子に自分たちの話しなどせず、ただ王子を休ませてあげるようになりました。
ある家では家伝のお薬を分け与え、ある家では王子に精の付く料理を振る舞い、またある家では王子に横になってもらうと、起きるまで近所の人が協力して静かにしていた程でした。


 一つの季節が過ぎたある夜更け、魔女はふと目を覚ましました。
しかし、そこは見慣れた自分の家ではなく、まだ新しい家の匂いがする大きな部屋でした。
ふかふかの羅紗の絨毯から体を起こし周りを見渡すと、自分の寝ていた所に大きな魔法陣が描かれており、傍らに傷だらけで王子が倒れておりました。
魔女はその魔法陣を見て、自分が掛けた氷の魔法を解くものだと分かりました。
王子を起こそうと抱きかかえると、顔は青黒く、頬はこけて息も絶え絶えな様子です。
そうです、王子は見事魔女の体をかけら一つ見逃さずにくっつけ、そして魔法を解くことに成功したのでした。しかしその代償として、今まさに王子は生死の境を彷徨っているのです。
魔女はためらいも無く自分の腕に傷を付け、滴る血を王子の口に含ませながら呪文を唱え続けました。
魔女の体をくっつけたのが王子の血である以上、魔女の血はいまや王子の血でもあるのです。その血を魔法の力で命の水と呼ばれるものに換え、ひたすら王子に与え続けたのでした。


 朝方、ドアを叩いても返事の無い事をいぶかしんだ執事が王子の部屋に入ると、ベッドに寝かされた王子と、傍らに倒れている魔女を見つけました。
大急ぎで宮廷医を呼び、手厚い看病が施されました。
一週間、王子と魔女は眠ったままでした。その間に、領地を訪れてこない王子を心配して領民達がお城をお見舞いにやって来るようになりました。
日に日にその数は膨れあがり、お見舞いの人たちは列をなして王子の回復を祈りました。
8日目の朝、王子と魔女は目を覚ましました。王子も、魔女も、それぞれが自分よりも相手が目を覚ました事を涙を流して喜び、また領民達も王子が目を覚ましたと聞かされると皆、自分の事のように喜びました。
執事たちや宮廷医、そして召使いやその他のお城の人たちもその様子を見て、涙があふれてくるのを止められませんでした。
何よりも、王子の優しさは十分に知っていましたが、魔女の心の美しさ、相手を思いやる気持ちの強さをその時初めて知り、魔女だから、と言うだけで怪訝な目で見ていた事を恥ずかしく思いました。


 翌日、体調の戻った王子と魔女は手を携えて王様のお城を訪れました。
勿論、王様に結婚する事を報告するためです。
当然、王様は怒りました。しかし王様は以前にお姫様から殺され掛けた事、王子が浮かべた冷ややかな笑いを忘れることが出来ませんでした。
王様は考えた結果、「この家を出るのならばもう王家とは関係ない。誰と結婚しようと余の知る所ではない」と言いました。
王子はその言葉を大層喜びました。王子は、人々の暮らしを楽にしたい、と言う思いはあり、後ろ髪を引かれる気持ちではありましたが、何よりも王様になるよりも魔女のお婿さんになる事を選んだのです。
王様に丁重に礼を述べ、自分の部屋からいくつかのお金になりそうなものと、荷物を運び出してそそくさとお城を出て行ってしまいました。
王子は魔女の家に着くと、自分がしていた指輪を魔女に与え、そして口吻を交わし、二人だけの結婚式をしたのです。
その時、王子の心に残っていた氷の魔法はすべて解けたのでした。


 王様が隣国のお姫様から命を狙われていた事、王子が魔女との結婚を反対されお城を追い出された事が明るみになると、領地は大騒ぎになりました。
もちろん、魔女と結婚する事に反対する人もおりましたが、大多数の人たちは王子を慕っており、噂を聞いた王子と魔女の元へ訪れたりするようになりました。
農家の人は、自分の畑で取れた野菜や果物を携えて来ました。
服屋さんは、王子や魔女の体の寸法を測って、決して上等では無いけれど素晴らしい服をあつらえて携えました。
靴屋さんは、王子の綺麗な靴が泥で汚れては勿体ないと、とても履きやすい仕事靴を作って携えました。
鍛冶屋さんは、王子は畑仕事も慣れていないだろうと、軽くて扱いやすいくわやすきを作って携えました。
お肉屋さんは、たまにはお肉も食べないと体を悪くすると、大きなお肉の固まりを携えました。
それ以外にも、お茶やお菓子を作って携えたり、また、王子が畑仕事をしていると、手伝わせて欲しいと言って一緒に仕事をしたりしました。
王子が、「今はもう代わりに返すものもないから」と辞退しようとすると、人々はこぞってこう言いました。
「王子にお返しをして欲しくてやってるんじゃない、自分たちがしたいからしているだけだ」と。
王子と魔女はそれらの好意に大変感謝をし、質素な暮らしをしておりました。
その様子に一層心を打たれた人々は、次第に今の王様より王子に王様となって欲しいと願うようになりました。


 また、魔女が皆にお茶を振る舞ったり、時折お話に加わると、人々はただ「魔女」という噂でしか知らなかった彼女が、実はごく普通の優しい女の子であった事を知り、魔女に対して抱いていた警戒心のようなものも薄らいで行きました。
あるとき、誰かが言いました。「王様を殺すようなお姫様より、優しい魔女の方が王子様にはふさわしいね」と。
王子と魔女はそれを聞き、自分たちが受け入れられ認められた事を嬉しく思いました。王様には受け入れて貰えませんでしたが、代わりに大勢の人から認められたのです。
王子は、「私が選んだ女性ですよ」と答えると、人々は「それなら間違いございませんな、王様は当てにならないから」と、笑い声が広がりました。
いつしか、昼、王子が仕事をしているときには常に、周りに誰かがいて、時折笑い声が聞こえる和やかな光景が広がるようになっていました。


 更に季節が幾つか過ぎたある時、王様の聖誕祭が行われました。
派手好きな王様らしく、盛大な催しとなりました。それは勿論領地の人たちからお金をとって行われたのでしたが。
王子は、もう自分とは関係がないからと言って出向こうとしませんでしたが、領地の人たちが熱心に誘ってくるのでやむなく、妻の魔女と共に懐かしいお城へと足を運びました。
王子達が着いたのはちょうど、王様の演説が始まる頃でした。
お城の中の広場に集まった民衆たちは静まりかえっておりましたが、王様が現れ、何か言おうとしたまさにその時、誰かが大声を上げてこう言いました。
「私たちの王様はあなたではない! 私たちが選ぶ王様はこの方だ!」
その瞬間、王子と魔女の周りの人たちが一斉に膝をついて、うやうやしく頭を下げました。そして、一部の民衆は雪崩をうってお城の中へと走って行きました。
普段でしたら、兵隊達が止めることでしょう。しかし、兵隊たちも、またお城の中の人たちも、何人かをのぞいて民衆達と同じ事を思っていたのです。
王子がまだお城に居た時から、兵隊達も、それから召使いたちも王子の心の美しさ、優しさを慕っており、一方で自分勝手な王様の事をいやがってはおりました。
それが王子がお城を出る事になってから、日々、王子に王様になって欲しかったのに、と口々に話しをしあい、王子の帰還を待ち望んでいたのです。
王様は民衆ばかりか兵隊達までもが武器を携えて自分の前に来たのを見ると、流石に観念したのか苦々しい顔をしつつ、一言「好きなようにせよ」と言い、崩れるように座り込んでしまいました。
広場は割れんばかりの大歓声に包まれました。
王子と魔女が王様の居た所へと案内されると、大歓声に包まれていた広場は一転、水を打ったかのように静まりかえり、民衆も、お城の人たちも王子の言葉を待ちました。
王子は小さな咳払いを一つすると、「このようなやり方は正しくない! 誰か怪我でもしたらどうするんです!」と一喝しました。
あっけにとられる民衆達をよそに、「ただ、このような事になった以上、私は責任をもって王となりましょう。今までみんなの事は色々と見てきたつもりだし、それを生かしてこの国をより良くしていきたい。けれど、もし、この国が悪い方へと傾き始めたなら、その時は今のように、私を王の座から追い落として頂きたいのです。」と続けました。
そして、「今、この瞬間から私は王となります。私にはすでにこの妻がおりますが、この妻も正式に王妃となります。不服あるものは手を挙げなさい」と皆に問いました。
勿論、手を挙げる者はおりません。王妃が「氷の魔女」と言われる人でも、魔女の心が名前とは裏腹に暖かなものであると言う事を、今まで訪れた人や、噂を聞いた人たちは皆知っていたからです。そして何よりも、王子が良いと思ったのならば良いのだろう、と信頼していたからです。
こうして、王子とその妻、魔女は迎えられながらお城へと戻り、戴冠式を経て正式に王様とお后さまになったのでした。


 新しい王様がまず最初にしたのは、税金の引き下げと、国庫にあるお金の一部を民衆に返す事でした。
その上で、自分たちも必要以上に贅沢をする事を禁じ、無駄遣いを控えるようにしたのです。
民衆達は、大変に喜びました。今まで苦しい思いをして払って来た税金が安くなり、生活に潤いが出始めると、少しずつですが買い物を楽しむ余裕も出始めました。
その話を聞き、隣国や、果てはもっと離れた国からも人々がやってくるようになりました。
隣国では、かつて王子の結婚式のときに悔しい思いをした王様と、帰されたお姫様とが民衆から沢山の税金を取ってもっと贅沢をするようになり、一部の人たち以外食べるものにも困るようになっていたのです。
新しい王様ははるばるやってきた人たちや、貧しい人たちに畑を用意し、働く場所を与えました。
税金が少なくとも、人が増えれば入ってくるお金も増えます。数年が経った頃には、国の金庫は沢山税金を取っていた頃よりもお金があるようになっていました。


 お金が増えて新しい王様が次にしたことは、学校をつくることでした。
その頃、人々にお金がまわるようになると、お金のことでちょっとした争いが起きるようになっていたのです。
ですから、民衆すべてがお金の計算が出来るようになること、そして文字を読めるようになるように、子供達だけではなく大人も学校に入るように勧めました。
学校では計算の勉強、言葉の勉強の他、魔法や錬金術、そして軍隊の事を勉強する事も出来ました。
新しい王様は、以前魔女の家で勉強した事が人々の役に立つ事を知っておりました。
魔法や錬金術というと、今までうさんくさい、怪しいものだと思われていましたが、錬金術で鉄や銅よりも軽くて強い金属を作り出したり、新しい薬を作り出して、今まで治らなかった病気も治す事が出来るようになったのです。
やがて、学校で勉強して大変に頭の良い人たちが現れるようになると、その人達に相応しい仕事に就かせ、仕事を任せるようにもなりました。
今まで、国の事は王様たちと、貴族達が全部しておりましたが、そこに貧しいものであっても頭が良く仕事が出来れば入れるようになったのです。
一部の貴族達は猛反対しましたが、他の貴族達はすでに勉強して他の国と商売をして大きな利益を上げており、新しい王様の力を認めていたので、結局は新しい王様の方針が通ったのです。
こうして、色々な所で頭の良い人たち、仕事が出来る人たちが頭角を現し始めた事で新しい王様もまた、少しずつ仕事から解放され新しい事を考える事が出来ました。


 ある時、隣の国が突然攻め込んでまいりました。
既に、隣の国は一部の贅沢のあまり大変に貧しくなっておりました。あのお姫様が直接指揮をとり、豊かに潤っているこの国を奪い取ってやろうと思ったのです。
しかし、ただ妬ましくて、場当たりで指揮をするお姫様、日々食べるものにも困るような兵隊達の軍隊と、一方は学校で軍隊を勉強した人が指揮し、訓練され体も立派な兵隊達の軍隊とでは、勝敗は明らかでした。
新しい王様がなるべく殺さないようにと命令を出していたので、指揮官は色々な罠を張り巡らし、あの手この手で隣国の兵隊達を生け捕りにしました。
大多数の兵隊達が生け捕りにされるとお姫様は這々の体で逃げ帰りました。
戦争で捕らえられた兵隊は当時、皆殺しにされるのが常でしたが、新しい王様は兵隊達の縄を解くと皆に食事やお酒を振る舞い、敵味方問わず労をねぎらいました。
その夜は、お城の前にある大きな広場で、敵味方入り交じっての大宴会となりました。
殺されると思っていた兵隊達は命を助けられたばかりか、もてなされた事に大変感動し、その場で新しい王様に命を捧げて仕える者も多くありました。
翌日、新しい王様は隣の国の兵隊達にわずかばかりですがお金を持たせて家族の為に使うよう指示し、戻らせたのです。
国に戻った兵隊達は、自分たちが攻め入った隣の国で、敵であるにもかかわらず手厚くもてなされたこと、こうして命を助けてもらったばかりか、お金も貰った事を口々に語りました。
以前より隣の国の噂話は人々の耳に入っていましたが、戦いから戻った兵士達の話は大きな波を起こしました。


 戦いが終わって暫くすると、新しい王様のもとに情報を知らせる早馬がやって参りました。
隣国で反乱が起き、王様も、お姫様も捕らえられたと言う事でした。
数日が経つと、新しい王様の所に縄でぐるぐる巻きにされた王様と、お姫様とを連れた人たちがやってきました。
その人たちは、「王様、この国に私たちの国の全てをお任せしたい。その証拠として、以前の王と姫君とこうして差し出します」と言いました。
新しい王様は「責任をもって承知した」と返事をすると、王様とお姫様の縄を解き、失礼のないように歓迎いたしました。
その時、お姫様は新しい王様の隣に立つ魔女を眺め、雷に打たれたかのような衝撃を受けました。
以前、自分よりもみすぼらしく、見た目も自分には及ばないとばかにして、そして凍っているところを粉々にした魔女が、今は自分よりも美しく、気高く思えたのでした。
魔女は着ているもの以外、何も変わっておりません。お姫様が自分の美しさと富に慢心していたのが、そのメッキがはがれただけなのです。
人の持つ本来の姿で言えば、お姫様よりも魔女は当初から美しかったことに、そして、驕りというものが人間を腐らせて行く事に、遅まきながらも気が付いたのでした。
お姫様はそれから、心を入れ替えたかのように真面目な人になり、その様子を見た魔女の薦めで礼儀やマナーを教える先生となりました。
今までお姫様が学んだ、王室での礼儀やマナーと言ったものはとてもしっかりしたもので、その噂を聞いた人が教室に溢れんばかりとなり、好評を博したとの事です。
こうして、新しい王様は自分から戦争をせず、隣の国を手に入れたのでした。
隣の国にも同じような政治をとり、時間は掛かりましたがゆっくりと、着実に国は潤っていきました。


 やがて、新しい王様と魔女との間には、男の子と女の子が生まれました。
王様の子供だからと言って特別な扱いをせず、街の子供達と一緒に学校へと行かせ、一緒に遊ばせました。
しつけだけは厳しくありましたが、王様も、魔女も深い愛情を注ぎ子供達を育てました。
また、執事や国の仕事をする人たちからも愛され、様々な事を学びました。
年頃になると、男の子も女の子も精悍で凛とした若者に育ちました。勿論、新しい王様と魔女から受け継いだ美しく、優しい心も携えておりました。
人々は二人を見ると、流石は王様と魔女の子供だと噂し合ったほどでした。
その頃までに、新しい王様は法律の制定や議会の成立、街の整備、さまざまな事に尽力しました。
国はかつてとは見まごう程に、豊かなものとなりました。
しかし、国が潤えば驕りたかぶる人もまた増えてまいります。王様はそれを気に病んでおりましたが、こればかりは命令してどうなるものではありません。


 ある時、王様は后である魔女と共に、とある海岸へと療養と称して出かけました。そこはずっと以前、魔女と結婚する前に、共に出かけていた海岸でした。
暖かな潮風がそよそよと吹き、海は凪ぎで静かな潮騒を立てておりました。
衣服に砂が付くことにも躊躇せず、王様は砂浜に腰を下ろすと、后も横に座りました。
「こうするのは久しいな、后。思えば余と后は、互い会う事も禁じられて居たものだった」
「ええ、ですから人目を避け、こうしてお会いしておりましたね」
「それが今や、王となり后となりてこうしている。不思議なものだね」
「後悔していらっしゃる?」
「後悔など微塵も。もとより王位を捨てた時ですら、後悔などは無かった。何かを得る為には、時に何かを捨てねばならぬからな。」
「今更ながら、王位と天秤に掛けられるほどの値は、私にはありませんでしたのに」
「余にはあったのだよ、それだけのことよ」
王様はごろりと横になり、后の太股を枕にしました。
「王様、お行儀の悪い」
「誰も見ては居らぬよ」
実際には執事や衛兵が警護の為に少し離れた所にいるのですが、王様のこういった側面を見知っているので皆、気にしてはおりません。
王様はゆっくりと流れる雲をぼんやりと眺めながら、こう呟きました。
「あの雲はいずこへ行くのかのう」
「それは誰にも分かりかねます。あの雲も、私たちも、それからこの国も。ですが一つ言えることは、行き先を見据え、後悔せぬようにする事か、と」
「左様よの。余にも、后も、まだ為すべきことは沢山あり、それを後悔せぬよう為すだけ、か」
「如何にも。そして子供達が次の世も安心して暮らしていけるように、子供達が自信を持ってこの国を受け継ぐ事が出来ますように」
「せめて後悔せぬように、な…」
王様はいつの間にか、后の膝枕ですやすやと寝息を立てておりました。
后はその間、優しく王様の髪を撫で梳かしながら、潮騒を聞いております。
日が傾き、夕方の優しい風が二人に吹いて来ると、遠くから執事が「陛下!そろそろ戻られませんとお体を冷やします!」と叫んでいます。
その声で王様は目を覚まし、体を伸ばして大きな欠伸を一つすると、后にこう、言いました。
「后、余は后と共に生きている事を感謝しているぞ」
「それは私もです、陛下」
「さあ、行こうか。執事がやかましい」
「ええ」
二人は立ち上がると、衣服に付いた砂をはたきながら、騒がしく叫ぶ執事たちの元へと歩いて行きました。
海は沈む夕日を映し、黄金色にまばゆく輝き、空は橙色と青紫色の雲が美しい模様を形作っておりました。


おしまい。


 これどう見ても子供向けじゃねえよな。クソ長いし。そもそもテーマわかんなくなったし。