電車は止まる

 先々週末から継続する案件で、某大型ショッピングモールでの抽選会の任務に携わっている。
朝、電車に乗ろうと駅に赴くと黒山の人だかり。
こら何じゃ、と人を掻き分け駅員に訊くと、この先で架線が切れて電車が止まっているらしく、また復旧も目処が立っていないと言う。
立ち仕事故の足の疲れが抜けてないから多少高い交通費出して楽なルート選んだのに。


 しょうがないから別ルート。地下鉄に揺られ店を目指す。
新横浜に着くと、突然目の前で女性がブッ倒した。慌てて介護する。
人が電車の中で倒れている横を何事も無く通り過ぎるサラリーマン達。
仕事に遅れそうなのやも知れぬ。だがそれだけではあるまい。第一仕事があるのはお互い様だ。
取り敢えず降車させる為に抱きかかえようとするも、重心のない人間を運ぶのは非力な俺には無理な話。悪戦苦闘する俺をよそ目に「邪魔だよ」と悪態ついて降りていく不埒な者もいる始末。
さしもの俺も周りの余りの薄情ぶりに半切れ。大声で「誰か手伝え!」と命令すると近くに居た人が一人、あ、と言う感じで手伝ってくれた。しかしまだ足元を支える人が欲しかったので「もう一人!」と命じると若い人が手伝ってくれた。
三人でベンチまで運び、寝かせたところで手伝ってくれた人達に礼を言い−俺が言う義理は無いが、当の本人は意識朦朧としたままだし−、また俺は待ってくれていた地下鉄に飛び乗って職場を目指す。


 仕事が終わって帰る時、朝は電車があの有り様だった事を思い出し、恐らくダイヤも乱れているだろうと別ルートを選ぶ。
で。
駅に着いてみれば駅前が黒山の人だかり。
今度は何よ、とげんなりしながら覗き込むと家に帰る道が「keep out」と書かれた黄色いテープで封鎖され、更に奥はブルーシートで覆われている。見張りの警官に何事かを問うても「事件です」の一点張り。そしてすぐ横を爆弾処理班が過ぎていく。
…爆弾処理班て。


 結局、俺は家までひどい遠回りをして戻り、疲れた足をさすりながら何事があったか調べた所、どうやら郵便局に爆発物を仕掛け、脅迫の電話があった、という事件だったらしい。
実際に不審物は見つかったらしいが爆弾とは報じられておらず、また怪我人の類も出なかったらしいのは幸いであった。


 たまたま朝、楽なルートを選んだばかりに、後のあとまで「何だかな」と言う連鎖。
ボタンを掛け違えた服を終日着ていたかのようだった。
…それにしても腹立たしいのは朝、新横浜で見て見ぬ振りをして、或いは悪態ついて降りて行ったサラリーマン共。
人を呪わば穴二つ(掘れ)と言うし、こんな事言うべきではないと思うけど。
「あの時、無視して降りて行った彼ら彼女らが行き倒れますように、そして誰も手を貸しませんよ〜うに★
誰からも助けてもらえない苦しみをそれぞれが痛い程思い知りますよ〜うに★」
でも俺が目の当たりにしたら、いやいやでも助けてしまうんだろうな、やっぱり。