[任務]自動車部品工場でのライン作業監督(概要編)

 皆さんご無沙汰しております。WACREMAです。
やっとこさ盆で暇を作れたので、記述が開いている期間、何をしてきたかを語ろうかと思いますよ。


 実は4月後半からずっと、某大手自動車メーカーの部品工場で働いている。
10名ほどを率いてその頭として指揮をするのが主な仕事。
まあ工場だから早朝からで、早起きが苦手な俺は辛い物があるけれど、「精神を凌駕するのが習慣という怪物だけなのだ」と言う三島由起夫の言葉を実践する意味も含め、何とか頑張ってこれている。
朝早く、また工場なんて言う地味で環境も決して良いとは言い難い場所故に2週間ほどで二人辞めてるけれど。


 相手クライアントも派遣を使うのが初めてという事で、俺達以外にもう一つ派遣を雇い、10行程ある内の前5行程を他派遣、後5行程を俺達が行う事に。
実は俺は会社からは「斬り込み隊長としてクライアントから信用を得る」「もう一つの派遣に勝つ(何を?)」と言う密命も持っていた。
要は、「隙があったら仕事奪って営業かけて」て事だ。
ここの所、比較的重要と思われる案件にはまず俺が送り込まれるのだが、相変わらず無茶を言う。


 俺達は主に出来上がった商品のチェックと梱包。しかし、それが当初クライアントサイドから提示されたラインでは異常に効率が悪い。
と言うのも、パレットに乗せられ運ばれてきた商品がたんまりポリ箱に入ったものを
(1) 商品4種を一つずつポリ箱から拾ってを長さ60cmくらいの段ボールに入れ、更に台車に乗せラインに供給する。ポリ箱やパレットが空になったらそれを片づける。
(2) 運ばれてきた段ボールをPOSでチェックしラインに流す。
(3) 流れてきた商品をきちんと畳んで入れる。
(4) ガムテープを貼って閉める。
(5) 箱にラベルを貼って、36個ずつ金属製の籠台車に乗せ、フォークで持って行ってもらう。
のを2ラインに分けて行う。しかも段ボールを作る人は専任が当初おらず、無くなったら手隙の人が作ってた訳だが、手隙になどなる訳がない。
また(1)で段ボールに入れたものをわざわざ台車に入れて運ぶ手間が煩わしい事この上ない。
どうしたものか、と思案した挙げ句、最初に段ボールを山の様に皆で作り置きしておく作戦を敢行するも、下見に来てたクライアントの偉いさんから「沢山段ボールが積んであると見栄えが悪い」と駄目出しを食らう。生産性より見栄え。工場なのに。
現場担当の係長や工場長は俺達に対し好意的であったが、その彼らも上司である偉いさんには逆らえないと見え、渋々作り置きしないよう命じてきた。
しょうがないので、ライン編成を一部変更し一名を段ボール専任とする。


 これを皮切りに、当初クライアントから提示されていた「ラインを編成するメンバーは常に固定」と言うしきたりを開始3日目にして破る事を決意。
理由は、「担当している場所によって疲労の蓄積度が著しく、疲労度の高い所は生産性が時間が経つ毎に落ちる」「仮に誰か休んだり離れる際に、すぐに誰かがフォロー出来るように」である。
また何よりも、皆が同じ給料貰って俺の配下として働いている以上、楽な事も苦しい事も、なるべく公平であるべきだと思ったからだ。
「ラインメンバーの固定」には大きな意味があったであろう事を知っている。
それは「作業を熟知した作業員による製品の安定化」だ。
しかし、作業自体が何ら複雑でも高度な知識や技術を必要とするもので無い場合、トレーニングと本人の適正をしっかり知ってさえ仕舞えば逆に、意味は無くなる。
無論、これを独断では出来ないので係長、工場長を説得、許可をもらう。
その後皆に趣旨を説明し、1週間をかけ、全員がどのポジションも担当出来るようトレーニング。
特に俺はリーダーである以上、どこを担当しても皆より少し出来るようでなければならないだろうと自分に決めつけ、結構必死に習得した。でないと、メンバーに対する説得力を持たなくなるだろうから。
俺は男女の区別はするが差別はしない。従って、女の子であっても多少大変な所を敢えて担当させた。もちろん、パレットや空ポリ箱の片づけなどと言う体力的に大変な所は俺や他の誰かが常にフォローするようにしたが。
そしてその上で、皆の適正を考慮し基本となる構成を決定、時間でローテーションさせるようにした。
クライアントの偉いさんはやはり最初良い顔をしなかったが、生産性の向上と安定というひとつの結果を出すと苦い顔をしなくはなった。


 基本的に俺が指示を出さなくともそれぞれが自分で仕事が出来るようになると、俺はラインに入らないよう指示され、仕事はペースの管理と紛れ込んで来た鳩を「ヤーッ」などと奇声を上げ追っ払うのがメインに。
あまりに暇なので係長や工場長の目を盗んで輪ゴムで人を狙撃したり。
おかげで「プラプラ隊長」「鳩隊長」と呼ばれる羽目に。


 余裕が出来れば周りが見える。
俺はどうしても(1)行程だけが労力が多く、特に「台車に乗せてラインまで運ぶ」のが無駄に思え、思い切ってラインの構造変更を打診してみる。
つまり、今まで「=」の形だった2ラインを「コ」形にして1ラインにし、その先端に段ボール製造場所とパレットを置いて
(1)が1人で2種ずつ拾ったもの=2人計4種を段ボールに詰め、ローラーで流す
としたのだ。
メリットは段ボールを作るその場で供給出来るために保管場所を必要とせず、(1)行程担当者は台車で移動する労力と時間の無駄を大きく省ける事だ。
この計画を工場長や係長に話すと、実は向こうも同じような事を考えていたらしく、すぐに実行してくれた。
効果は如実だった。一応はクライアントから提示されていた生産ノルマがあるのだが(ただこれは日によって入ってくる物の数が変動するためにあまり意味を為さなくなった)、変更直後そのノルマの倍近い数字を叩き出し、しかもメンバーの疲労度は軽減した。
この事で係長や工場長からは「あいつらはやりおる」と信頼を得、そして同時に、「あれだけ早く、多くの物をこなせるのだから」と、しばしば他の雑用にも駆り出されるようになると言う副産物を生み出した。


 俺達がそうして仕事が増える(ただそれが苦であったかと言えばそうではなく、寧ろ皆気分転換になると喜んだほどだ)一方で、別派遣の方は何の改善もすることなく、効率の悪い方法をただ最初に言われたまま遵守するに留まっていた。
結果として彼らが生産する速度より俺達が消化する速度の方が圧倒的に速くなり、手隙になりがちなのでまた別の仕事が増えると言うサイクルになった。
当初、その速度の違いは単なる仕事の違いだろうと思っていたが、単なる要領の悪さでしか無かった。
それに気付かされたのは、2つの出来事である。
一つは、その別派遣の方(以降前工程と記述)で使う、1m程度の立方体をしたエアクッションの塊を保管場所まで納入する仕事を頼まれた時。
それは全員で行ったのだが、俺は「面倒だから台車で運ぼう」と提案。台車は沢山あるし、2人で6つは運べる。
一方、前工程メンバーは一人が両手に2コずつ、汗をかきながら運んでいる。
別に台車を使うのを禁止されている訳ではない。台数だってまだ余裕ある。にも関わらず、俺達が台車で運んでいる側を彼らはわざわざ大変な方法で運んでいる。
正直な所、「なんで?」と思った。
もう一つは、別派遣の人間が度々無断欠勤をした際にやむなく、こちらから応援を寄越した時の事だ。
無断欠勤、と言うのも社会人としてどうなんだと思うが、応援に行かせると必ず休憩の際に手際と要領の悪さの愚痴を聞く羽目になる。
俺は自分のラインの監督だから前工程に携わる事が出来ず、従って自分の経験として語る事が出来ないが、応援に行かせる面子全てからそういう愚痴を聞くというのは、そういう事なのだろう。


 当初俺は会社から密命を帯びて居たが、仕事を奪う前から相手は自滅してくれていた。前述したとおり業績を上げると、現場担当である係長も休憩中はおろか仕事中であっても俺達に良く声を掛けてくれるようになり、やがて冗談を言い合える程になる一方で、欠勤が出るたびに「あっちの派遣は駄目だね…」と言われるようになった。
そして、前工程で2人、契約期間を迎える前に辞めた人が出ると、その穴埋めとしてウチの派遣から人を寄越してくれという依頼が入った。
また更に、同じ工場内ではあるが全く別のラインにも噂を聞いてか派遣の依頼が入り、俺は彼らの管理をも任される事となった。とは言え、俺の主な仕事は自分のラインの管理なので、実質、彼らの管理と言っても勤怠や会社とのパイプ役程度なのだが。


 こんな感じで、当初6月までの仕事が延長を重ね7月末までになり、更に上述した「別ライン」に異動要請が出たのでそのまま異動し今に至ります。
ただ決して楽な事ばかりではなく、立ちっぱなし&便秘の慢性化でまた痔を患ったり、膝の関節が痛かったり、人が辞めた後で俺もラインに組み込まれた結果、腱鞘炎になりかけたりしてます。
ただまあ、どっか痛くなったりするのは俺だけじゃないし。皆が同じようなものを抱えている以上、俺だけが楽するのは嫌いだし。
俺はこの仕事である程度金を貯めたら、そのままどっかに正社員として潜り込もうと目論んでいるけれど、案外金って貯まらないもんですな。
てか一時は工場全体の派遣者数で第二位にまで上げたんだからボーナスくらい欲しいよね。