オレオレ詐欺からの電話

 仕事を終え家に帰ると、親こと総司令閣下から「昼間家に電話したか」と問われた。
該当時刻は仕事の真っ最中で、よほど何かなければ電話出来ないと答えると、そうよねえ、やっぱり不自然だったのよね、と曰った。
何の事やら要領を得ず、何かあったのかと尋ねると、こういう事があったと言うのだ。


 昼過ぎ、外出の用意をしていると「オレだよオレ〜」と妙にしまりのない、変な抑揚で-端的に言い換えれば「チャラい」と言った所だろうか-電話があった。
電話では弟の実名を出し、そして「(弟の件で)某って奴から電話無かった〜?」と、問うたと言う。
そんな人物からの電話も無く、また俺が話しているには間が抜けている感じがあり、閣下は「いや、そんな電話は来てない。ところでお前は誰だ」と返した。
すると「オレだよオレ〜、わかんないの〜」と答えるものだから、閣下はそれを真似し「わかんな〜い。(声を引くして)アンタ誰。」と言った所、「わかんないならいいや〜」と電話を切られたと言う事だ。


 その話を聞くや否や、弟と二人、俺が出たかった、と声を上げる。
当の本人を相手にして陳腐な演技を繰り広げる茶番を是非とも鑑賞したかった。
閣下曰わく、最初俺が風邪を引いて鼻声になったかと思ったが、それを差し引いても軽薄な印象が違和感として残ったと言う。
まあ俺なら「俺だよ俺〜」なんて言わず、もっと強い口調だろうしな。


 最初こそ面白がっていたが時間が経つと次第に腹立たしく思い始めて来た。
少なくとも、俺はそんな年中口を開けっぱなしの、知恵足らずのような喋り方はしないし、それで誰あろう俺自身に成り変わろうとし、あわよくば金を騙し取ろうと言う底の浅い愚考の対象とされた事が腹立たしい。
俺を騙ろうとするならせめて相応に言葉を学び俺に匹敵する語彙を増やした上で来い。
直接侮辱された訳では勿論無いのだが、それに近い感情を抱いた。
そしてその背景にあるのは、自分が軽蔑している種の人間から真似されたと言う嫌悪感なのだろう。


 恐らく貴奴等の筋書きでは、最初の電話の後ですぐ、別の者が電話を掛け、さしずめ事故を起こしたとか示談金が必要だとか宣うのだろう。
ただ生憎と、俺は法律を学んだし、弟や閣下も事故の示談にすぐ応じるような事はしない。
全く、身の程知らずが。


 とはいえ、オレオレ詐欺なんてもう過去の物かと思っていたけれど、こうして現実に我が身−というか我が家−にも未だに掛かってくる所をみると、結構遭遇する頻度ってのは高いものなのかも知れない。
そして、そう言う際に身を守れるのは結局、知識なのだ。
まあ、皆さんももしそう言う電話とかあっても、すぐ相手の言う事に頷いたりしてはダメだよ。
まず、連絡を取る。話はそれからだ。