自動車部品工場でのライン作業:見るだけライン編


 もうかれこれ一年以上になるが、某大手マテリアルメーカーの子会社で自動車部品の組み立て、組み付けの仕事を行って居た。
初め、俺に宛がわれたのは「外観検査」というモノを見るだけの仕事。
ドアロックの構成部品にひびや、傷や、異常が無いかというのを見るだけ。
まあ、誰でも出来る仕事。俺は大江健三郎の「見るだけの拷問」という小説をなぜか思い出した。
幸い、ライン長は若い社員で、非常に気楽な所だった。


 当初は俺ともう一人の派遣とでやっていたけど、後に彼は逃げだし、俺が一人で対応することとなった。
一日当たりの予定生産量は2000個程度。こう書くと多いように思えるけど、慣れてくれば時間当たり300個とか普通に検査出来るんですわ。
従って俺一人で十分だったのだが、別のラインで問題を起こしたフィリピン人のおばさん(以下ピーナ)がここに島流しされてから様相が変わる。
俺一人で十分なとこに、人が増えるからやることがなくなる。
ダラダラとわざと時間を掛けてやったりもしたがあまり俺の性には合わない。
しょうがないので他のラインに応援に行ったりする内に、そこの人とトレードの話しが出るものの、当時そこは毎日残業4時間、休日出社がデフォルトだったので無理ですと断る。


 更にしばらくして、外観検査ラインにまた一人おばさんが送りこまれてきた。
俺が来る前から居る人で、あだ名を幽霊さんと言い、話し方も行動も鈍臭く、かなり不思議ちゃんな人物だった。
その人が送り込まれて来てから「ここって駄目な子ライン?」と思い始める。
3人居るから予定生産数も引き上げられたものの、大体俺は半日から、遅くても午後には仕事を終え暇になる。
そうすると今度は、翌日、翌々日分と先行するのだが、やがて見るべきモノが無くなる事態。
丁度その頃、生産現場を現在の1Fから2Fの倉庫へと引っ越す予定が持ち上がっており、俺はその引っ越し先の掃除やペンキ塗りなどに狩り出されるようになった。
俺が誤ってペンキ塗り立ての所に踏み入ってしまい、今も足跡が残ってるのは懐かしい思い出だ。
こうして、冬の気配が訪れ始めた頃に生産現場は2Fへと移り、俺の仕事もまた別の局面を迎えたのだが、続きはまた次回。