VS 先物取引業者の営業電話


 夕飯を食い終わりちんたらとケーブルテレビを見ていた所、家の電話が鳴った。
親曰く、俺の知り合いと言う事なので電話に出てみれば。
「Wacremaさんですか?Gと言う会社の某と申します!今回はガソリンの…」
ハイ、先物一発ツモー!しかも自分の事、詐称ー!てめえ知り合いでも何でも無えじゃん。
まあ、若干暇だったんで相手をすると共に、二度とこちらに電話を掛けたくなくなるように画策を始める。


 彼らの電話には一定のパターンがある。
断られる事を前提としている為に、まずメリットをしつこく説明する。
そして断る時に、その理由をこれまたしつこく聞かれるのだ。
その返答に困るようだと、間をおかずにまた、攻勢に出られる。大概はそこで揺らいでしまう。


 電話を握りつつPCを立ち上げ、件の会社をグーグルで検索する。
あー、あるわあるわ。訴訟起こされたり被害者の会みたいなのも。
俺の思惑を余所に、電話の向こうでは「何故始めないんですか?」と此方が如何に間違っているか、愚かしい事か、等と云った口ぶりで煽りを入れてくる。
「いやあ、金無いんですわ。実は既に別の所でGOLDに手を出して失敗しましてね…」と嘘トーク
「そうだったんですか、どちらで?」
「(実在する社名を挙げて)某で300程。」
「ああ、成る程…。でも金で追証かかるってのはあまり無いんじゃないですか?」と、金の値段の動きやパーセンテージなどから出る数字を元に具体的に追求される。思ったより早くバレるなあ。
「ええ、そうですね。ま、今云った事は全部嘘、無い事づくしなんで。」
外務員、言葉を失う。動揺が見て取れる。


 そこから今度、逆切れ。
「私が折角、説明してるのに嘘つくなんて非道いじゃないですか!」
「そーですね(いいとも風に)」
「そんな事して良いと思ってるんですか!」
「嘘も方便とは申しますから」
「方便って!嘘なら、どうしてそこまで詳しくご存じなんですか!嘘じゃないんでしょう」
「嘘ですよ。まあ貴方が何処まで信じるかは知りませんがね」
「あ、あなたはそんな失礼な事をして平気なんですか!」
「逆説的に云えば、平気じゃなければしないでしょう?え、それとも真逆、傷付いちゃったりなんかしたんですか?ブロークンハートですか?」
相手の言葉に隙間が多くなってくる。マニュアルを見てるのだろうか。


 少し落ち着きを取り戻したのか、何故俺が、先物に手を出さないのかと言う事に話をシフトされた。
「いやだから、先物に手を出して損をして懲りたとお話したじゃないですか。それ以来、信用してないんですよ」
「それはさっき嘘だと…」
「ええ、嘘なんですけどね」
「…」


 廻る廻る螺旋の言葉。何処までが嘘で、何処までが真か、彼は恐らく疑念の渦に巻き込まれて居るだろう。
「し、しかし、お客様が仰った理由の、金銭的な方としましては、少額からでも可能ですし…」
「だから金無いって云ってるじゃないですか。少額と云っても1万円からスタート、なんて事は出来ますまい」
「それはそうですが、数十万からのスタートも可能ですし」
「ああ、私無職なんでそれ程余裕無いんですよ。アルファベットで書くとMUSHOKUです」
「またご冗談を」
「いえ、ほんとですよ。嘘かも知れませんけどね?只、一つ云える真実は、私が先物に手を出す積もりはゼロだと云う事です」
外務員は遂に言葉に詰まり、「失礼しました」と電話を切った。


 以前にも書いたが、先物取引をする行為自体には何の悪もない。
また、一部には儲ける人も居る事だし、損をする事ばかりを論うのは嫌いだ。
問題は、資金引き上げをやんわりと拒否されたり、ずるずると資金を吸い上げられる所にあり、そしてそう言う事をする会社は悪徳と呼ばれる。
皮肉にも、電話営業を掛けてくる会社の殆どがそう言う会社になっていると云う事実もある。
だからこそ電話営業は鬱陶しい。故に、ここ(俺の家)にはかけたくない、と思わせたいのだ。
ただ、ガチャ切りするだけでは、向こうが勝手に怒っていたずら電話をされる事もある。
今回の俺の作戦が功を奏したかはわからないが、少なくとも、俺と話をするのは厭だと思われたのなら悪くない。


 追記 今度こういう作戦に出てみようかと思う。
「儲けやすいお話なんですがね」と言う電話に対して、「よし、それならならあんた、俺に250万出資しろ。その内の200万をあんたの会社に預ける。それをあんたが動かして儲けるんだ。名目上は俺が預けてある訳だから、外務員が取引してる事にはならん。儲けはあんた9割で。元本保証は明言出来ませんけど、どう?」って。