鳥肌の立った事を、二つ

 まず、昨日の日記にも書いた、俺が体験した話、から。リクエストのメールがあったので、折角だから書いておこう。
俺自身が怖いと思った事だから、諸君には怖いと思えないかも知れないけど。
情景を想像しながら読んで欲しい。


 あれは、今から10年前、20歳頃だったろうか、地元の友人達と正月に鎌倉に行った時の事だった。
鶴岡八幡宮に参る積もりだったのだが、参道を埋め尽くす人の多さに辟易し、道を外れどこか店に入って遅くなるのを待とうと言う事になった。
所が、俺達が外れた辺りは店などは無く、何処か無いかと奥に行けば行く程に、人影も少なく成っていった。


 暫く歩くと、竹藪に囲まれた広大な敷地があった。何気なく目をやると、その奥に廃墟となった、大きな古い日本家屋が見えた。
どうせ戻っても人でいっぱいだし、暇つぶしに探検してみようぜ、と言う友人の誘いに俺は、良し、行こうと声を上げ、率先してコートの裾を翻し、館の中に入った。


 大きな表玄関は封鎖されていて入れず、裏口の小さな木戸を開けて中に進入した。
中は当然真っ暗で、俺はジッポーを灯し、明かりとした。
そこは大きな調理場で、今ではもう見る事さえ珍しい、竈(かまど)で炊事を行っていたようだ。
どうやら、ここは嘗て旅館だったようだ。竈の大きさがそれを物語る。
月明かりだけでは心許なく、その炊事場にあった蝋燭に火を灯し、明かりにして、まずその炊事場を探索した。
戸棚には食器が整然と残っており、漆器などの様子から相応のレベルの高さが窺(うかが)い知れた。
残されていた古新聞を見ると、昭和30年代の日付があった。何時、廃業したのか分からないが、幾ら何でもそんな昔の新聞をとって置くものだろうか。大体は、廃業した時に近い日付である筈なのだが。
建物は30年近くも放っておかれた感じはしない。精々、5年といって良いだろう。その矛盾。


 おかしいな、と思いつつもう少し何か手がかりになるものはないか、と探していると、古ぼけた、セピア色の記念写真が見つかった。しかも大量に。
蝋燭の明かりでそんな写真を発見した時の驚愕。そして、なぜこんなものが、という不可解。
古ぼけているから写真も鮮明さを欠き、それが一層の恐怖を煽った。
写真を元の場所に戻し、別の部屋を探索してみよう、という事になった。
一階の客室は特に荒らされた様子もなく、それは鎌倉という立地条件も手伝っては居たのだろうが、にしても、整然とし過ぎているきらいはあった。
経験上、廃墟は必ず荒らされているのが定番だったので、些か虚を突かれた思いもしていた。
そう、まるで眠っているかのような建物。他の廃墟のように、朽ちているのでは無かった。
他の友人達はその様子に安堵していたようだったが、俺は逆に、何故という思いばかりが強くなっていた。


 適度に客室を見ていると、二階に上がる階段を発見した。
唐突に床が抜ける事もあるので、慎重に、足元を踏みしめながら上がっていく。
先頭である俺は、その時は足元ばかり見ていたのだが、そろそろ階段のてっぺんと言う所で後続の友人が将に悲鳴、という声を上げ、そして逃げようとした。
その際に、別の友人が持っていた蝋燭は火が消えてしまい、軽い恐慌状態になろうとしていた俺達はお互いにぶつかって、俺の持っていた蝋燭も消えてしまった。
怖がらすなよ、落ち着け、などと言い、早鐘を打つ心臓を感じながらジッポーで火を付けた。
再び、辺りが仄かに照らされると後続の友人達は悲鳴を上げ、Wac、前!と言い、我先にと逃げ出し始めた。


 前、と言われた所、階段を丁度上った所には。
仏壇の様な物の中に、日本人形が置いてあった。俺は、その人形と目が合った。
何故かは分からないが、ごめんなさい、と口から言葉が零れ、最早恐慌状態になっている友人達を慌てて追いかけ、外に出た。


 這々の体で人が沢山居る、あの参道まで戻り、そしてあれは何だったんだ、と言う話になったが、誰も、それ以上のことを言いたがらなかった。
俺が大学を卒業し、横浜に戻ってから後、もう一度あの廃墟は探索せねばと思い何度か探したが、その名残すら見つける事が出来なかった。
俺達は、何処に入り込んで居たのだろうか。
ただ、それだけの事である。なのだが、俺の経験した中では、かなり怖い思い出である。


 その2
これは現代の話。そして怖い話じゃない。


 俺は帰ってきて飯を食った後、テレビのチャンネルを変える。ニュースがやっていないと、ケーブルのアニメのチャンネルに合わせる事も多い。
つい先日、そうして見たのが「ホイッスル」といったかな、サッカーのアニメだった。
見ていて、鳥肌立った。怖気がした。


 何故か。
それは声優が余りにも下手だったからだ。しかもどいつもこいつも。
棒読みにも程がある。


 大根役者の演技も見ていて大層見苦しいものではあるが、演技の下手な声優ばかりの、大して面白くも無いアニメってのは本当、ホラーだね。
最早、度し難い。何をどうやったらこんなになるんだろう。
俺は所謂、オタク向けと思われるような、中身が薄くて、デッサンが狂っていて、女子供ばかり出てきて、はわわ、だの、きゅーん、だの抜かすようなのは取り敢えず作った奴全員並べて飛び膝蹴り入れたい位大嫌いだけど、真逆サッカーのアニメ見て寒気がするとは思わなかった。
油断大敵。