祭の始末

 昨日の続き。


 常連だか桜だか分からないが、兎も角鬱陶しい連中とのトラブルも無難にやり過ごす事が出来、夜が更けるに従って俺達も、それから鬱陶しい連中も、その後に普通に並んでいる人達も、些か眠気が出て来たようで静かになり始める。
その間に、狙い台を決めておこうと作戦会議を開いた。
前日、前々日の状況を鑑み、俺は数機種に数台の予想を立てた。中でもその内一台は自信があったので、自分はこれを打つと意思表示。周りの了承も得る事が出来、一安心。


 所が、朝方に一つの情報が齎(もたら)された。
件の鬱陶しい連中が、台を全部占拠するという情報だ。
つまり、俺達の後に彼らが入るや否や、残っている台総てに煙草や携帯を投げ置き、他の人達には座らせないという作戦。
その常連達の直後にも、掲示板を見てやって来て、うち解けた仲間達も居るから、それをされては困る。
いや、困るという事以上にその思想自体が児戯。


 彼らにそうされては堪らん、と、俺達も後続数人の分の台を確保しておこう、と話し合いの末決定した。
本来、これもマナー違反だし、やってる事自体その鬱陶しい連中と変わらなくなって仕舞うのだが。
合議の末、誰がどこの台を取るかという事を決め、俺は本来打つのは1階なのだが、自分の台取りは他の人に任せ、2階の一部を受け持つ事になった。責任は重大である。


 俺はあまり馴れ合いとかをしたくない人間だ。
だから、打つ時も一人。だけど、偶にはこうして馴れ合うのも悪くないと思った。
どの台にしよう、とか、いつも何打ってるの、とか、趣味の合う奴らでする話は盛り上がる。
他の人もそんな感じで、いつも一人で打ってる人も多く、その辺りの親近感もあっただろう。
こうして、知らない者同士で、膝を突き合わせ談笑し、そして開店時の事を考え興奮する。


 やがて陽は昇り、人通りも増え始めると周りも俄に活気づいてきた。
並んでいる列は100人前後だろうか。この分だと開店時には更に増えるだろう。
と、そこで、件の鬱陶しい連中の仲間が20人ほど集まり始めた。列には加わらないが、仲間達と話し込んでいる。
顔ぶれや服装を見ると、どれも品性に欠け、言わば駄犬の群れと言った所だろうか。事実、夜半は「駄犬程良く吠える」の例に倣ったのではあるが。
更に暫くすると、店員、それも副店長らしき人がやって来て、俺達に一瞥をくれた後、連中と仲良く話し始めた。
ん、やっぱりグルなのね。だとしたら、もう一波乱はある。俺はそう直感した。
副店長が戻り、あと数分で開店と言う段になり、例の20人は突然に列に割り込みを始めた。
これが厭だからこそ、前日から並んでいたのだが、後ろでされていてもやはり、義憤に駆られる思い。


 開店時間になった。
俺は階段を駆け上り、2台を確保して後続が来るのを待つ。程なくして「ありがとう!」と仲間達がやって来たので、頑張ろうねと言い残して下に降りる。
所が、下は混乱の様相を呈していた。
下では、モノによる台の確保が急に禁止になったのだ。以前はこの店はそれを黙認していたのだが、どうやら、俺達という招かれざる客に対応する為の手段らしい。つうか、本来はそうあるべきだが。
俺の打つべき台も当然、他の者が座っており、台取りをする筈だった仲間は申し訳なさそうな顔で俺を見ている。


 …徒労、か。俺は人に台を取ってあげる為だけに、今まで居たのだろうか。そう思って少し切なくなった瞬間。
目の前の男が急に荷物を取って、別の台へと移動した。
狙い台では無いがやむなし、とそこに座る。奇しくもそこは、俺の狙い台の隣。しかも座っているのは件の鬱陶しい連中の一人。
打ち始めても居ないのに、早くも悔しくなる。


 幸いな事に俺の台は、投資を殆どする事なく、けれどあまり増える様な展開も無く。これじゃあ10万勝ちは夢だな、と隣の俺の打つはずだった台を見れば、あれよあれよと言う間にメダルを増やしていく。
まあ、今からどうこう言っても詮方無いのだが。
だが、許し難い事が一つあって、そいつから腐敗臭が漂ってくるのだ。
何をどうしたら人間から、こんな腐敗臭が漂って来るのかは分からん。
腋臭などはしょうがない事だが、そう言う匂いではない。生ゴミと魚が腐った様な匂いをずっと発し続けられている。言い方は悪いが、ホームレスでもこんな匂いは発しないのではなかろうか。
更に、体中をボリボリと掻き、口を常に半開きにしている様を見ていると、どこのスラム街からやって来た人かしらん、とすら思う。
こんな連中が徒党を組み、台を占拠するおかげで一般の人は打てない訳だ。
衛生上、それから社会正義上、様々な理由によってこういうのは焼却処分した方が良い。


 結果から言えば、俺はショボ勝ち(と言っても、周りの人と比べてだが)だった。
戦も後半に差し掛かると疲れで絵柄が見えなくなり、子役取りこぼすわ、ビッグ中のハズシ失敗するわで惨憺。
コンディションが良ければ1.5倍は勝ち額を上乗せ出来て居ただろう。
それと、やはり狙い台を取れなかった事、その2点が悔やまれる。
他の参加者達は、ほぼ皆さんが大勝を得ていた。
ただ、俺だけがショボくて勝ちは勝ちだし、最近の負け癖を断ち切る事は出来た。
そう言った意味では、得たものは大きい。


 ただ、俺のたった一つの心残りは、あの鬱陶しい連中に俺の顔を覚えられてしまった事。
俺がリーダーって訳でも無いのに。
ま、あの店は一人で打ちに行く事は無いだろうけどな。