バカ・ハンバーグ

 親が数日家を空ける事になった。
当然、家事全般を弟と分担しこなさなければならない。
俺は、掃除とか洗濯とかが苦手なので買い物と料理を担当する。


 何と言っても、料理を担当するという事は好きなものを食えると言う事だ。
何にしようか、と一応弟と協議するものの、「どうせ肉だろ」とあっさり看破される。
ただその際に、肉買ってきて焼き肉、ってのも能が無いから止めてくれと言われ、偶には他の肉料理作ってみてくれよと挑発されたので、俺もちょっとばかり本気を出してハンバーグを作る事にする。


 ハンバーグなんて簡単だろう、と仰る方も多いだろう。
だが、真に美味いものを作れるか否か。問題はそこであり、そして、俺は自信がある。少なくとも店で出すようなレベルには達していると自負している。
吠え面かくなよ、と弟に宣戦布告をし、買い物に出掛ける。


 敢えて閉店間際に行く事で、安く材料を調達出来たのは良いのだが、挽肉を豚と牛と、分けて買う事が出来ず、只の合い挽き肉しか買う事が出来なかった。
牛と豚の割合はハンバーグを作る際には重要で、牛7に対し豚3の割合が美味しいとされる。牛が多くなるとどうしてもパサつきがちになり、かといって豚が多くなると味わいが変わる。
無論、5:5でも構いはしないのだが、欲を言えば7:3なのだ。ま、売ってないならしょうがないけど。


 最初に玉葱をみじん切りにしてキツネ色程度になるまで炒め、食パンを細かく千切って牛乳を共に捏ね併せ、そこに先の炒め玉葱と肉、下味の塩胡椒、ナツメグ、そして牛脂を一塊程度入れ、3分程度の間手早く捏ねる。
捏ねた後に、握り飯大の大きさを撮り、掌の上で投げながら空気抜きをしつつ成形して行く。余分に作ったものはラップをし、冷凍庫に入れておく。
その作業を端で見ていた弟が、ぽつりと、でけえハンバーグ食いてえな、と呟いた。
OK、それなら望み叶えて進ぜよう。


 諸君も子供の頃、自分の好きな食べ物がとびきり大きかったら良いのにな、などと思った事はないだろうか。
俺自身、一人暮らししていた時にそう思って、洗面器を用いバカゼリーやバケツを用いバカプリンを作成し、量の多さに困った事があったが、それに続く第三弾が、直径約30センチ以上の、フライパン全面を使用して作り上げたバカ・ハンバーグだ。
作る立場だからこそ、そして良い大人だからこそ出来るバカ。
実際に出来上がった代物を見ても、どうにかしているとしか思えない。
弟もこれを見て、「確かにでかいの食いたいと言ったさ。ああ言った。でもな、程度考えろ!」と極めて嬉しそうに語った。


 味の方は、当然不味い筈も無いのだが、やはり大きいだけに火の通りを配慮した結果、些か火の通しすぎの感はあった。
まあ、普通サイズの方はそれもあまり気にする事では無く、極めて普通にふんわりと、且つしっかりした味に仕上がった。
大皿一杯に広がるハンバーグと言う名の肉塊を食卓に乗せ、さあ食え、たんと食えと、弟に勧める。
最初、「あ、マジで美味い。口惜しいけど美味い」と言っていた弟が、後半には「これって拷問だね」と呟いたのが印象的な夕食風景であった。


追記 でも、今日作ったハンバーグは、個人的には及第点だが、満を持してと言うレベルには至らなかった。それがちと、口惜しい。