今時の就職活動のおかしさに物申す

 新聞の広告の中に、就職セミナー開催と書かれたチラシが入っていた。
「スタートダッシュで差を付ける!」と大きく書かれたその広告は、どうやら一般向けのものではなくて、新卒対象のセミナーの様だった。
「スタートダッシュ」と言う言葉は、就職活動に遅れた人に使う言葉じゃない。
と、すると、今、大学三年生の人を対象にしているんだろう。


 俺が在学していた時にちょうど就職協定というものが廃止され、その所為で企業の活動が一気に前倒しになった。
面目上は一応、その協定があった時は夏場に就職活動開始、秋口に内定という形だったのだが、この協定が無くなった所為で他社よりも早く採用する、と言う流れになり、そして右に倣えと言わんばかりに多くの企業で説明会や試験日程がどんどんと、前倒しに成っていた。
確か、就職協定は青田刈りを防止し、大学教育の妨げに成らないようにと言う意味で行われて居た筈だったが、結局それが無くなるとどこも青田刈りするのに必死、となった訳だ。
そして、今ではこの時期に活動開始、と言う訳で。否、正確に言えば今からやったのでは遅いんだろう。
と、なると、大学三年生の夏には始まっている事になる。


 大学という所は、1、2年次は一般教養の修得、3,4年になって漸く専門科目の修得になる。
専門課程こそが大学の醍醐味であるのだが、現在では、その専門をこれから学ぶと言う所で就職活動に勤しまなければ成らない。
数十、数百と言う企業に資料請求やエントリーをして、説明会や試験が有る毎に授業を休み、行かなければならない。
地方に居る人で、上京して働こうと思っている人は一々東京に出て来なければならないので、その出費も極めて大きい。
事実、俺が就職活動を諦めざるを得なかった理由の一つはそれであった。毎週東京に出てたんじゃ、金保たねえよ。
また、内内定してから研修を学生がまだ在学しているのに行う企業もある。俺の当時、時給700円くらいだったりしたかな。
当然、そんなの断れないから、授業やゼミを犠牲にして行く人も多い訳だ。


 これから専門、と言う所でそうやって授業に出られないような状況になると、そもそもの専門教育の意味合いが薄くなってくる。ひいては大学の意義自体が薄らぐのだ。
勿論、今では大学=インテリジェンスなんて等号ではなく、単なるモラトリアムの場としてしか見られていない事もある。
大学というものの垣根自体が低くなり、企業も大卒に対して何ら特別なものを見出している訳でも無いだろう。
だからこそ、こういう事にもなっているのだと思う。
だが、それでも俺は、大学に行ったにも関わらず、専門に満足に携われない侭に卒業し就職して行くと言う事は、おかしいと思うのだ。


 本音建前は別にして、大学に行き勉強するという事の本質は専門の修得にある。
しかし、こうしてその学業自体が蔑ろにされるような状態になってしまうと、じゃあ大学要らねえじゃんと言う事にも繋がりかねない。
そうじゃないとしても、企業の求める様な人材を送り出すために、学業とは別の、実戦向きの専門を大学は修得させるようにならないと、そっぽを向かれるだろう。
そうなると、職業専門学校とやってる事は変わらなくなる。わざわざ高い金と長い時間かけて大学に行くよりも、専門学校でより高度な技術を習得して世に出た方が、マシってもんだと思うのは俺だけだろうか。
実際、セカンドスクール(或いはダブルスクール)と称されるように、大学に行きつつ専門学校に通ってスキルを付けていた人も俺の在学時に居た訳だが、それと似た様な状況が必須とされるのも遠い未来の話じゃない。


 そう言う流れだからしょうがない、と皆、それに従っているけれど、それはやっぱおかしいだろ。
確かに理論や勉強ばかり先行して実践が伴わないと言う状態は本末転倒である。だから、インターン制度などを単位に反映させるような仕組み自体はもっと盛り上げるべきだと思うし、大学の一般教養などで、授業に出なくても試験で優が取れるようなものやる位なら、ビジネスマナー講座でも開いた方が有意義だ。けれどそれが表に出るべきものでもない。
大学の常道はやはり学問にある。そしてそれは、経済や法律と言った実学だけではない。歴史や文学と言った、大凡(おおよそ)企業の人事からは嫌われるようなものも学問である。
その学問をしに大学に行ってるんだから、急いて邪魔したるなよ、企業。


 そう考えると、以前あった就職協定のようなものはやはり必要なんじゃないだろうか。
少なくとも卒業論文をまとめあげてから、就職活動に勤しむ様な時期が望ましいと思う。
でないと、先述した様に大学に行く意味、勉強をする意味が無い。
確かに、内定してから研修を行って、なるべく即戦力の状態で入社させようとする企業の思惑とはかけ離れるものになってしまうのだが、良いじゃん。そう言うもんだと認識すれば。そう言うルールなんだから。
事実、その就職協定があった時代も卒無く行えて居た訳だし。


 今の状況ってのは、企業の欲が全面に出て、学生や学校がそれに振り回されている状態だと思う。
企業は長い時間を掛けて就職活動に勤しめる、等と良い事ばかり宣うが、その結果が大卒なのに就職率55%なんて数字。(文部科学省調査・平成15年度。>>クリックでPDF表示
勿論、この就職率の悪さの一番の原因は不況と構造改革の失敗にある訳だが、長い時間掛けて就職活動など出来ないし、つうか企業がさせてくれない現実がある。ある一時期を逃すともう奈落。日本は一度レールを外れると復帰出来ないようなシステムになっているので、そこで躓くと厳しいものがある。
そのあたりのおかしさも含めて、ちょっと考えてみるべき問題なんじゃないかなと俺は思う。