日本国内に於ける売春の歴史

 さらに昨日の続き。
えーっとだな。歴史から紐解こうと思っては居たのだが、どうにも長くなりそうなんで端折る。
日本では古代は、性にまつわるものは生に繋がり、そのまま聖属性を付与されていた。信仰の対象ですらあった。
各地に残る祭や神事にも、その名残は伺える。恐らく、どこの地域にも男性器、或いは女性器を祀った祭があるだろう。
祭以外にも、一番メジャーな例えで言えば、記紀*1の中に記されている天の岩戸伝説だろう。
太陽神である天照大御神(あまてらすおおみのかみ)が、素戔鳴尊(すさのおのみこと)の暴挙に腹を立て岩屋戸に隠れられたので、天宇津女命(あまのうずめのみこと)が踊りを踊り、天照大御神を岩屋戸からお出しするという話だ。
その時の踊りは乳房を露わにし、陰部は服の間から見えたと言う。これ則ち、今で言うストリップ。それが神話に堂々と載っている位なのだ。


 時代は下り、平安時代。前回のコメント欄にも記述した通り、芸能集団として全国を行脚しつつ売春行為を行う、いわばプロ集団が形成されるようになった。
鎌倉時代になると、朝廷直属の「公庭(こうてい)」と呼ばれる遊女が存在するようになる。白拍子もその一種だと言えるだろう。
室町時代に入ると、傾城屋(けいせいや)と呼ばれる娼家が出現し始める。大抵は小道などに存在し、一つの小さな集落を結成するようになる。今で言う歓楽街だね。
その小道や地域を「辻子(ずし)」と呼び、後に「地獄辻子」あるいは「カセ*2辻子」と言う呼び方が出てくる。
傾城屋は検非違使*3によって統括され、税金を徴収されていた。
また、売られる「性」が次第に女がメインとなるのは恐らくこの頃以降だろう。


 江戸時代になると、幕府によって娼家は一地域にまとめられ、有名な吉原が出現する。
この頃、娼家は悪所とも呼ばれるようになり、差別的な意味合いを持つようになる。
そもそも女性が差別対象となり始めたのは、ケガレの概念の出現によるもの(=ケガレは血や病気そのものを意味していたが、やがて女性が毎月血を流す事から、女性そのものをケガレとするようになった)だろうが、それに前回記述した家父長制の台頭が拍車を掛けたのではないかと推察される。


 明治に入って日本は産業、それから思想そのものにさえ近代化の波を受けた。
特に、キリスト教的価値観や思考は、今まで人々の中にあった価値観や思考を旧弊的だとして追い遣り、新たな倫理観を植え付けるのに半ば成功した。
純潔の概念の登場や、処女信仰の強化などが、それにあたる。しかしながら、娼婦自体の存在は禁止される事も無く、1956年の売春禁止法が成立するまで存在し続けるのである。
しかし、この売春禁止法自体も、「売る方」を犯罪とし「買う方」を咎める事はなかった。
買う方を咎めるのは、つい最近の援助交際の問題化による、青少年育成条例の成立を待つ事になる。


 これが、日本に於ける売春の歴史である。
これらから見ていくと、差別対象となった事はあっても、明確に悪と断ずるようになるのは実に、精々50年前でしかない。
倫理観として悪だと言われるようになるのはキリスト教流入によるものが大きいだろうから、やはり明治期になるだろう。
何故、最近かと言うと、一つには女性の地位の向上が挙げられると思う。
守る側である女性は、富を作る手段を持てなかった。故に、富を作る手段は性を売る事しかなかったのである。
しかし、女性の社会進出と家父長制の崩壊によって、性を売らずとも富を得られるようになってきた。
そこで、人権の観点からの「悪」と言う概念が生まれ、断罪されるようになるのだ。


 然り乍ら、人権の観点から悪だと言う事は、果たして整合性のあるや否や。
漸く本題に近づいた所で長いしダルいのでまた次回。


 追記 匿名メールからこんなお手紙戴いたので、紹介。
『近代になって処女の純潔が重要視されるようになったのは間違いないですね。自由民権運動に携わった北村透谷は「処女の純潔を論ず」という論文で「処女の純潔から恋愛に進むのが正しい道だ」と述べてます。
ただ、処女信仰に関してはもっと古くから(「ムラ」が成立したくらい)あったんじゃないかなあ。性は生に繋がることから、聖に見られる事が多かれ少なかれ各地であったはずです。特に神道なんかはそのオンパレードで、おかげで明治初期には淫祠邪教として官僚から弾圧されていますし。あまり知られてませんが。

どんな感じで話がまとまるか楽しみです。』


 それに対してレス。
処女信仰は確かにものすごい昔からあった筈です。ムラの長がその破瓜権を持っていたり、或いは合議の末に手に入れると言う風習があったと言うのを、何処かで読みましたし。
ですが、それらと昨今の処女信仰とが同一だとは思えないのです。
キリスト教的処女信仰=純潔の概念や処女=尊いものだと言う概念の存在が、それを破るタブーという快楽に結びつき、現在も一部の莫迦な男が抱く様な良く分からん処女信仰になったと考えています。
そう言った意味では俺の書き方が悪かったかな。スマンす。
あと期待されてもまとまるかどうか…。
書いてて段々不安に(汗)。


併記 端折ってこの長さかよ!

*1:古事記日本書紀の総称

*2:「カセ」とは貝の一種で、おそらく女性器を指す隠語。

*3:けびいし:当時の警察機構