*1 衛生博覧会とは

明治時代後半から昭和40年代はじめにかけて日本各地で開催された衛生思想啓蒙のための、警察主催(ここポイント)の展覧会。
伝染病や性病などの危険から体を守り、予防知識を普及させる目的もあるのだが、展示内容が解剖(ろう)人形、露骨な性的表現のされた浮世人形、江戸時代の拷問絵図、性病患者の顔面や性器の蝋細工、などと言うように性や出産、病変部位や死体を取り上げ、実際には「衛生教育」を建前にしたグロテスクな見せ物といった感が強く、今で言うホラー映画のように一般市民の怖いモノ見たさや好奇心を刺激し、大変な人気を博した。
そうだな、現在では東京タワーの蝋人形館と目黒にある「寄生虫博物館」と、新宿花園神社に時折出る見せ物小屋と、マニアックなアダルトビデオを上映している温泉地の秘宝館を足して変な汁で煮詰めた感じと言えばニュアンスは掴めるだろうか。


 因みに、江戸川乱歩の『悪魔の紋章』にはこのように描かれている。
「場内(衛生博覧会)の一半には医療器械、一半には奇怪な解剖模型や、義手義足や、疾病模型の蝋人形などが陳列してある。
3人はそれらの陳列棚の間を、ぐるぐると忙しく歩き回った。
毒々しい赤と青で塗られた、4斗樽ほどもある心臓模型、太い血管で血走ったフットボールほどの眼球模型、無数の蚤(のみ)がはいまわっているような脳髄模型、等身大の蝋人形をから竹割りにした内臓模型、長く見つめていると吐きけを催すような、それらのまがまがしい蝋細工の間を、3人はわき目もふらず歩いていく。」


尚、衛生博覧会は青弓社・田中聡著「衛生展覧会の欲望」が詳しい。興味を持たれた方は一読してみては如何だろうか。