好い加減な事ばかり教える上司を目の当たりにした事

 えと、スロの事を書いてるけれど、スルーされるような内容じゃないと思います。
恐らく、結構色んな人に関係のある事なんじゃないかな、と。


 四月一日、至る所でフレッシャーズ達の新生活が始まり、そして恐らく何人かの方々は、その生活に慣れるとまでは行かなくとも、上司や先輩、同僚、友人に声をかけられるようになって来た頃では無いだろうか。
俺が今日、「北斗の拳」を打っていた時も、そんな感じの、会社帰りの上司と新入社員と思しき二人が横に座った。
多分、「おう、これからパチスロ付き合えよ」、そんな感じの遣り取りの後なのだろう。


 どうやら、その若い新人はパチスロも初めてらしく、コインサンドに漱石を投入するのもぎこちない。
上司と二人、揃ってメダルを筐体に入れ、そろそろとレバーを叩き、ボタンを押す。
左からボタンを押せ、とか、このベットボタンを押せとか、などと共に、演出の度に、上司がそれを解説する。
ここまで聞くと、いい話でしょう。俺も、最初はほんわかとした気持ちでそれを眺めていた。


 ある、演出が上司の台で発生した。
この台では、演出として同行する者が増える事がある。
それは自分の滞在しているモードの期待度を示したり、或いは子役のナビゲーションをしてくれたりするのだが、その子役のナビはどのボタンを押した後に発生するかや、ものが落ちる数とで期待度も変わる。
大体は、遅い方や落ちるものの多い方ががチャンスで、ハズレ指示でも例外ではない。


 「おい、見てろ」
ディストーションギターの予告音の後、画面では、子役ナビで水色の缶が3つ転がっている。高確率でボーナスに繋がる状態を暗示している。
「ちっ、水色じゃ駄目なんだよ、赤か緑じゃないと」
「そうなんですか。」
…はい? いや、赤(チェリーの告知)と緑(スイカの告知)はボーナスに直結するからアツイのだけども、水色三つもなかなかですよ? だって高確率状態の可能性、大ですから。


 すぐにまた、3つ目のボタンを押した時に白い空き缶を同行の者が落とす。これもまた、高確率状態を裏付ける目安。
すると上司。
「白かよ! 駄目だー!」
…はい? 前回のと併せると、ほぼそれで、高確率状態だと判断出来るんですよ?


 まあ、高確率状態には居るのだから、引きが強ければ確実にボーナスに結びつく。
案の定、程なくボタン第三停止で赤い林檎三つ*1、出てるし。でも、リールでは取りこぼして変な出目が。
「お!これこれ!もうすぐだ!」
上司をのぞき込む新人のリールには、同じく左リールの中段にチェリー。しかも、無演出だから確定。
おーい。大事なの見逃してますよー?


 その後すぐ、二人ともにボーナス確定という文字が液晶に出る。上司も部下の突然のボーナスには驚いたらしく、二人揃って喜んでいる。
一生懸命に黒い「北斗」絵柄を数ゲームほど狙った後、また数ゲームかけて7を狙う。どうやら、目押しが出来ないようだ。
ここで俺が助力しては、上司としての面子も丸つぶれになるだろう故に、素知らぬ振りを決め込む。
まずは、その上司が懸命に7を揃えた後、部下のも揃えてやって、一緒にボーナス開始。
うん、そういうの、楽しいよね。わかるわかる。
でもね、「北斗」なんざ揃う確率3%程度ですから、最初に7狙うのがロス無いですよ。


 部下の方は2連で終わってしまったが、上司は続く続く。
ケンシロウが攻撃する毎にその様を嬉しそうに部下に見せ、ラオウに攻撃され、地に伏しそうになると胸で十字を切り、筐体の左にあるランプを手で隠し覆っている。
「こうするとな、ケンシロウが復活しやすいんだ」
「こうですか?」
大の男二人、珍妙奇天烈な行動。しかも一人は敬虔なクリスチャンの如く、必死に十字を切っている。
5連を越え、もうすぐ10連という連チャン回数で、ラオウが攻撃する度にそれですよ。
俺、笑いを越えて、何かこう、変な宗教の儀式を見てるようで寒くなる。
つうかランプ抑えて継続なんて初めて聞きましたよ。どこでそれを察知し制御しとんねん。


 更に。
その上司が、マナー良くない。
ドル箱にメダルを入れると、徐にその上にもう一つ箱を被せ、思いっきり振る、振る。
こうすると、僅かに多くメダルを入れる事が出来るのだが、何せその喧しさったら−想像してみると良い。大量の小銭をプラスチックの大きな箱に入れて思いっきり振る音を−。
故に、この行為は「ドル箱シェイク」と言われ、マナーの悪さを示すと言われる程だ。
こういう事は、嬉々として教えるような事ではないにも関わらず、嬉しそうに教えている。


 上司の懸命の祈りと策(?)も通じず、歌は流れる事無く連チャンは終了した。
が、その後また、上司節炸裂。
口惜しそうに台にパンチした後で、「これからが暫くチャンスゾーンなんだ。」
まあ、認識は間違っては居ないが、正解とも言い難い。ボーナス終わってから大体1/2から1/4で高確率状態に移行するからね。


 程なくして、件のギターの予告音。
何を思ったか上司、ボタンを押さず液晶に向かって手で招いている。
…この人、何してんの?
その疑問は、彼の口から齎された。
「今、チャンスだって言っただろう。こうするとな、赤とか緑出るんだよ。」
そしてボタンを押すと、第一ボタン停止で白缶。アツさゼロ。
「惜しいなあ」
いやまて。惜しくも何ともないぞ。招く前から何が出るか決まってるんだから。


 俺の台の様子は芳しくなく、また、何よりもその程度の低いコントのようなものを見ているのが辛くなってきたので、逃げるようにその台を捨て立ち去った。
多分、俺が去った後もしばらくは、上司流の謎攻略が展開されていた事だろう。


 考えてみればその部下も可哀相で。
だって、好い加減な事ばかりをさもそれが当然の如く、教えられている訳でしょう。
多少でも知っていたらそれを否定出来るのだけれども、もし、あの部下が知っていて、それを上司に告げてもそれが快く受け入れられるかも分からん。
寧ろ、場合に拠っては生意気だとか、余計な口出しとかを思われるかも知れない。
もし俺が部下として同じ局面に居たら、恐らく耐えられないだろうな。


 そして、これはパチスロと言う、普通の人には娯楽だったからまだ良いだろう。ま、娯楽と言っても金が掛かって居る訳だから、疎かには出来ないが。
それよりも寧ろ、例えば、仕事であったりした場合。
無論、上司はそれが最善、俺の流儀として当然のようにそう教えるだろう。
だが、それが本当は間違っていたとしたら。間違って無くとも、遠回り、リスキー、そういった事であるとすれば。
結構、考えると空恐ろしくなってくる。


 新人諸君、俺が偉そうな御託を延べられる義理ではないが、教えて貰った事こそが総て、正しいなどと露思わぬ事だ。
これは仕事に限らず、総ての事に言える事だけれども、何が正しいとか、何が近道などと言うのは色々な事を鑑みて、自分自身で判断せねばならない。
「教えて貰った事だから」
そう思って、そこで思考を停止してしまうと、結構損する事が多いかも知れないよ。


 ま、色々と軋轢があったり、人間関係に馴染めなかったりしてくるだろうけれども、頑張ってな、適当に。
気張り過ぎてもロクな事にはならんからね。


追記 イラクでの人質が漸く解放されたようだが、みんな書いてるだろうし敢えて特に書くつもりもない。
ただ、彼らはこれからの方が大変かも知れないね。帰って来ないかもな。
同様に、イタリア人が拘束され、そしてこちらは殺されてしまったけれども、何故か、イタリア人の方が堂々としていて侍のようであるとすら思えるのは俺だけだろうか。

*1:高確率状態で引ければボーナス確定という「左中段チェリー」の告知