20年前の缶詰を開ける

Wacrema2005-01-05

 「今年のヨゴレ、今年の内に」
と、TVのCMでは歌っていたが、去年の大掃除を段階的にやっていく内に3が日。
そう、まだ大掃除、しかも台所という大物を残して年を越した。


 毎度毎度、この狭い家の何処にこれだけのゴミがあるのかと首をかしげるのであるが、台所もまあ大した物で。
魔境と化している冷蔵庫、空き瓶や空き缶の数々はもとより、今回の大物は収納各所。
出るわ出るわ、もの凄い代物が。


まず、レンジ台として使っている収納の中。
恐らく、俺が中学生、或いは高校生時代に、父親がアメリカから土産として買ってきて、封を開けてちょっと喰ったビーフジャーキー。
もうね。スカスカになってて。うわあ、と悲鳴を上げながらそっと袋をつまむと、棚にへばりついていてなかなか取れない。強引に、且つ慎重に引きはがすとビニールに小さい穴が開いてて、そこから粉がこぼれ落ちる。
なんだ、この穴。そう思って目をこらしたのは失敗だった。
その小さな穴は、虫が食った跡で。こぼれ落ちた粉は、虫の死骸と糞、それとビーフジャーキーのかけら。
バイオハザード認定!速やかに、且つ慎重に破棄!」と弟が逃げながら叫び、俺もビニール袋にそっと捨てたものの、棚にはまだ粉とこびりついた跡が残っている。
思案した挙げ句、洗剤を粉の上から垂らし、一緒に拭き取って仕舞おうとしたのだが、それがまた失敗で。
水分を与えられた粉は、取り敢えず元の物へと戻ろうとするじゃないですか。
洗剤の水分を吸って、虫の糞と、腐った肉の臭いが充満する。見る間に洗剤が変な茶色に染まる。ちょっとしたBC(Bio・Chemicalの略。生物化学)テロ。
軽く吐き気を催しながらも、BC兵器を処分し早くも先行きの暗さに眩暈を起こす。


 その棚の中を整理し、次はシンク下の収納。
容量が大きいだけあって、色々な物が眠っている。
その中で、特にパンチが効いていたものを幾つか挙げよう。


 台所だけあって、瓶や缶に入ったものが多く、そのゴミを捨てるにしても、中身を流して洗ってからと決められている以上、そうせねばならない。
なので、明らかに賞味期限が切れた酒などを捨てていく内に、自然と台所が酢の臭いが漂い始める。
手始めに「91年度産の未開封瓶入りソース」を捨てようとしたところ、弟が「これ普通に使えるんじゃね?」と臭いを嗅いで宣う。
なら毒味はお前がしろよ、と言った所、指先につけてぺろり。
直後に吐く弟。「臭いは普通なんだよ。でも嘗めると体中からエラー音がする」だと。
「味はどうなのさ」と問うと、「ソース味じゃない事しかわからない」だそうだ。


 流している内にキツかったのが「いつ買ったか分からない、ノンアルコールワイン」。最早ワインの香りではなく、バルサミコの香りがする。
流したら明らかにヤバい澱が濁々と出てくるし、ちょっと香りが目にしみるし。


 涙目になりながら、「どれも半分から1/3程度だけ残った、大量のハチミツ」をどうするか思案していたが、ある瓶に「賞味期限:20年7月」と書かれていたのを見て、ハチミツは結構保つんだと驚くと共に、では状態が良さげなもの(まだ固まらず、とろんとしたもの)だけまとめてしまおうと言う事になったのだが、その纏めていく最中にトラップとなったのが「ハチミツの瓶に入れられたマンゴチャツネ」。
いや、同じハチミツの瓶に入ってたし、隣に置いてあったし、とろんとしてたんで大丈夫と思い瓶に開けた途端、中からねろんと何かが。どう見てもマズいだろうと言う何かが、腐敗臭を伴って。
その時点で一番使えそうなハチミツが廃棄処分。「罠だった!」と言いつつ、また流しに瓶を開け、そして残された、B判定の固まったハチミツを湯煎に掛け、一つの瓶に纏め直す。


 俺がこうしていると、やにわに弟がTV番組「なんでも鑑定団」で鑑定中の曲を歌い出す。
「何?」と問うと、弟が「ペクシー」と書かれたレトロなデザインの、パイナップル味の缶ジュースを指先でつまみ上げる。
「いつのだよ…」と底を見れば、「1985年7月」と。およそ20年物。
「ささ、ここはグイッと!」と薦める弟に対し「殺す気か!」と最新のギャグで応え、中身を捨てるべく封を開ける。
あのね。パインの臭いも色も、これっぽっちも無いんですよ。錆と酢の混合物でしか無いんですよ。
「キてるなあ…」と酢の鉄の香りにくらくらしていると、また「何でも鑑定団」のBGMが。


 今度は何が発掘されたんだ、と見れば。
明治屋の缶入りハム」。製造年月日は89年。
それを開けている内に、何をトチ狂ったのか、弟がこれ焼いてみようぜ、とフライパンを熱し始めた。
焼けば消毒になる、と思ってるバカがここに。
「缶詰ってもともと保存用だしさ」などと論理的なようで全く論理的ではない事をぬかし始める始末。
封を開けた所、予想と反してハムは見た目腐敗もしておらず、また缶入り故些か鉄の臭いがするが、それ以外に厭な臭いもしない。
なので、「じゃ、焼いてみろよ」とGOサインを出す。
焼き始めると、普通に美味しそうな臭いが立ち始める。長い時間を掛けている所為もあり、腹は何時しかぺこぺこだ。
空腹の欲求もあってか、焼き上がったハムはとても美味そうには見えた。
「じゃ、喰ってみるよ」
弟はそう言うと、慎重に箸で一欠片切り取り、そっと舌の上に載せる。
「お!普通!」と言った直後に吐く。
うがいをし、「美味い少し食べてみ!」と全く説得力がない事を言うので辞退していたが、「いや、良いから」と更に薦める。
俺も何故口に運んだか分からん。ただ、「ネタになる」と思っていたのは事実だ。
口に運んだハムは、最初極普通の香りであった。
直後、口腔に広がる鉄の臭い、味。言い換えれば、鉄棒の味。
吐き出し、うがいをしても尚も残る鉄棒の味。出た結論は、「缶詰は保存用だけど長期保存を視野にはしていない」と言う事だ。


 あとは「いつ漬けられたか分からない梅酒」などを整理し、また「フタと入れ物がどうあがいても合わないタッパーの数々」に頭を悩ませつつ、大掃除は終了。
出たゴミの総量は、45リットルのゴミ袋が5つ。どんだけあんねん。
なお、こうして今も俺がピンピンとしている以上、あれらのものから大ダメージを食らう事は無かった事を付記しておく。
まあ、飲み込んでないから、とも言えるけどさ。


追記:驚いたのは、今も「ペクシー」が当時のデザインの侭に売っていること。
ソースは >>こちらを参照あれ