任務：大手メーカー社員に偽装せよ
まだこれから４月半ばまで継続している仕事なので詳細を備には書けないのだが、今俺は恐らく誰もが知っている某有名メーカーの仕事を請け負っている。
内容は、本社にて新卒採用の案内。主に学生を会場までナビゲートしたり、会場内で移動する際に先頭に立ち部屋まで連れて行ったり、場合によっては受付もしている。もちろん、その時ばかりはその会社の社員として振る舞う。
普通、こういった仕事は企業の人事が担当するもの、だという認識が諸君にはあるだろう。俺もそうで、てっきり裏方の補佐のような仕事をするのかと思っていたら、思いっきり矢面に立つ仕事であった。
正直、なんでこんな仕事が？ と疑問に思うような仕事。
何せクライアントは大手オブ大手。しかも直接の依頼。失敗や失礼は許されない。
いつもは他企業で普通に働いていると言うリーダー格の、４０過ぎ位の人と、それから受付のプロと言われている女性、そして恐らく一度社会人となったものの、何らかの理由で今は休んでいるらしい女性という布陣の中で、ひとり社会人経験ゼロの俺。
過去数度俺は言ったことがあるが、俺は大学を卒業し、地元に戻ってそのまま就職する機会を逸し、スロプロの真似事をして口に糊してきた。そのまま無為に月日は経ち今に至るのだが、当然社会人としてのマナーなどには疎く、俺のアキレス腱の一つである。
そんな新兵同然の俺が歴戦の強者に囲まれて、しかも何故かサブリーダーとして任務に就く。否が応でも不安が去来する。
無論、泣き言ばかり言っても始まらないから、俺は俺の職務を全うするだけなのだが。
と、思ってたらリーダー格の人に叱られましたよ、たんまり。
これは俺の備忘録も兼ねているので内容を書いておくと。まず重要度の高いものとして。
・トイレに行った後、スーツの前ボタンを外したまま、忘れて居た。
・立ち方が偉そうだった。
・花粉が多そうな日だったので、コンタクトを避け敢えて眼鏡で行ったら、眼鏡の傷を汚れだと思われ、汚い眼鏡などするな、と指摘された。
言われてみれば、どれも当然の事。相手が学生とはいえ大切なお客様であることには変わらないし、またこの中には将来の幹部候補も混ざっている。そうした人達に対し、自分が偉い訳でも無いのに、幾ら無意識とはいえ偉そうな態度を取る事の無礼さ。
また、オフィシャルな場に於いては決してジャケットの前ボタンを外さないと言う事を知らなかった無知。
言い訳しようと思えば幾らでも出来る。帰るか？と言われもしたけれど、いつだって仕事を降りられるけれどそれでは何の得にもならない。
その他小さいもの。
・早く来すぎた学生に対し、「宜しければ中でお待ち頂いても結構ですし、何ならお近くの喫茶店などでリラックスなさっても結構ですよ」と言った所、余計な事を言うな、と叱られる。
この場合「お近くの〜」が余計な事になるのだが、内心では受け入れがたい。向こうの言い分も分かるけれどね。
・食べ終わった弁当箱の分別をすることになって、生ゴミやプラスチックなどを分けている所に本社人事の担当の方がいらして、「申し訳ないので業者の方に取りに来て頂きますね」と仰られたのに対し、最初は「いえ、どうかお構いなく」と答えていたのだが、あまりに向こうが恐縮するので（業者引き取りの提案に対し）「有難いことです」と答えた所、後でまた叱られる。
曰く。「これも営業なんだ。大の男がスーツ来てこんな事やってんだぞ、向こうは申し訳ない、と思うだろうし、また『あそこはなんでもやってくれる』と思うだろう」とのこと。
つまり、敢えて汚れ役をやることで相手に負い目、心理的負担を与え、逆にこちら側は心理的優位に立つ事だと推察。なるほど、と思わず膝を叩く。
・提案するな、と叱られる。
指示を仰ぐ事は良いが、そこから先提案すると生意気、或いは余計なお世話と思われる。だから余計な事はするな、と叱られた。
これも内心、俄に頷き難いものがある。ただ、無難にそつなく仕事をこなすにはこの方が良いのだろう。俺達は所詮借りられてきた傭兵にしか過ぎないし、変に責任を求められても困るといえば困る。
−自ずから
俺が悪いと思った事に関しては頭を垂れ、戒めを受け入れない事には前には進めない。
叱られる事はやっぱり厭で、その時は内心腹も立ったりしたけれど、どれも恐らく今後俺に必要となる知識や経験であるだろう。
全般を通し、俺が今後気を付けるべき事は、「分を弁える」、「余計な事言わない」。
この２点に集約されるのだろうな。その上で報告、連絡、相談（通称ほうれんそう）を重視して動けば良いだろう。
まあ、多分今後まだたんまり叱られるだろうけれど、その都度ごとに襟を正したい。
って全然仕事の内容書いてない内に長くなったな。後日改めて記すよ。
