任務:某社1次選考会を援護せよ

 漸く今偽装潜入している会社での一次面接が終了した。
俺の仕事は来場する学生たちを案内したり、進行のアナウンスをしたりなど。一般系と技術系とで若干の差異はあるけれど、でも大体似たような感じ。
より具体的に述べると、こうなる。

  1. 快活な笑顔で挨拶しつつ、来場する学生に受付の場所を教え、暫し待機させる。セキュリティの関係上学生を勝手に移動させたり出来ないので、或る程度の人数が溜まったら受付まで案内。また、結構迷って別のビルに行こうとする人が多いので「本日はこちらでは無く、あちら別館での受付となります」などと言って連れ戻す。
  2. 忙しくなった頃を見計らって受付に戻り、手伝い。主に学生が仕上げてきたレポートに面接部屋の番号を記述していく。
  3. 論文を書いている間に面接になるのだが、その待合室まで10人程度の学生を呼び、連れて行く。更に待機場所で面接官が来るまでなるべく和ませる。
  4. 面接が終わった学生を見送り。

というもののループ。特に重要であったのが3だろうな。


 やっぱり、論文を書いている時に名前を呼ぶと一瞬場が緊張するのが分かる。
名前を呼ばれた学生を並べ、別の面接待機場所へと案内し着席させても、皆顔がこわばって、中には緊張でそわそわしたり、肩をいからせていたりする人も居た。
この企業は大学名を記述させる事は無い。が、一部の学生はやはり律儀に大学名を記述していたりするし、何よりも誰もが知る超有名企業。その一部の学生が記した大学名を見てもまあ、東大をはじめ錚々たる名前が連なっている。
けれど、その学歴を一皮むけば皆、誰も同じように緊張して居る様子を見ると、なんだか少しだけ微笑ましく思える。
何にせよ、彼ら彼女らは高いポテンシャルを秘めている。緊張のあまりその高いポテンシャルを引き出せずにいるのは勿体ない。
せっかく良いエンジンを積んでいるのだから、高い出力を出して欲しい。その為に、俺が緊張してガチガチになった彼らを少しでもリラックスさせる事が出来れば、と思っていた。
まあ幸いに、俺自身がアホであるので、軽口を叩きちょっとした笑いを取ることは出来る。ガチガチに凍った雰囲気をちょっとした笑いで和らげた頃に面接官がやってきて、彼らを連れて出て行く。
いってらっしゃい、と声を掛ける。


 総ての学生を面接待機場所まで案内すると丁度、次の回の学生を中に入れる時間になる。彼らをまた中に入れ、論文を書かせている頃に面接が終わるので、見計らって送りに行く。
「お疲れ様、いかがでした?」と声を掛けると、大概は緊張しましたと帰ってくるけれども、中にはお陰様で結構リラックスして話すことが出来ました、と言ってくる学生もいて、少しは役に立てたかと思うと嬉しい。
玄関の所で、一人一人に「またお会いできたら嬉しいと思っております。どうかお気を付けてお帰り下さい」と延べ、帰って行く彼らを見送る。
決してこれは営業トークではなく、俺の本心として。


 どうしても、選考と言う性質上、殆どの人はもう会うことも無いだろう。
けれど、本音から言えば彼ら総ての人が望む所で働けたら良いのにな、良い結果になると良いなと思う。
もちろん、この会社に落とされて、別の所に行ったらそちらの方が本人の相性とマッチしていた、と言うことだってあるだろう。
だから一概にこの会社に入る事が良い結果だとは言わない。
けれどね、やっぱり皆が満足する良い結果に、良い就職先に就けると良いなと本当に思うよ。
これには無論、俺自身の現在の境遇と、それから来る投影もあるのだけれど、でもやっぱりあの不安そうな彼ら彼女らが安堵しそして後々になってもまあ満足するような仕事に就けたら良いな、と思う。


 この仕事は俺にとって非常に勉強になっている。
過日、叱られた事にしてもそうだし、選考会と言うものの内情、また選考する基準などもぽろりと引き出せている。
これは新卒、中途如何を問わない事だろう。
俺が知り得た所での、面接時の重要なポイントは以下に記述する。俺以外でも、読者諸君の参考になれば幸い。

  • 志望理由と志望度
    • 志望理由が明確であるか、仕事内容をはっきりとイメージング出来るか、将来のヴィジョンがあるか、仕事の厳しさを知った上で志望しているのか。
  • スキル
    • 志望職種とスキルがあっているか。
  • 目標達成力
    • 難しい内容を伴うものをやり遂げた事があるか。目的達成の為に体力、気力を発揮できるか。
  • 人当たり
    • 意見を批判されたり、発言を遮られたりなどされた際にムキになったり、不快感を露わにしたり、笑顔を消してしまうようではダメ。
  • 自己管理能力
    • 計画立てて活動したり、お金や時間に困らないのと良い。
  • チームワーク
    • プロジェクトと呼べるようなものに参加したことがあるか、自分の役割を明確にした上でチーム全体に貢献したことがあるか。
  • 統率力
    • 集団を率いた際に、目標や方法を仲間に明確に指示していたか、また困難な状況下にあったときに適切な指示を出して乗り越えられたかどうか。
  • クリエイティヴィティ
    • 例えば面接官から何らかの改善案を提出するよう求められたときに、抽象的であったり非現実的であったり、平板でありふれていたり、つまらない案やイメージできないようなのはダメ。
  • 問題解決力
    • 例えば面接官から「今こういう事が問題になってますが、どうしてそうなったと思いますか」などと質問された際に、尋ねられている事が理解出来なかったり、問題を分析する上での情報が偏っていたり、乏しい。また立論に客観性が欠け納得性が弱いようだとダメ。
  • 状況適応能力
    • 日常とは違う環境に身を置いた経験をした際に、例えばその異なる価値観や文化などを肯定したり、或いは自分の価値観、信念に固執しない、積極的に自分を変え同化しようとする事は好まれる。
  • ストレス耐性
    • 批判や懐疑などを与えられた際に、不快感を示したり対話を諦めたり、また混乱したり答えが曖昧になるようではダメ。


 多分、上記の事は所謂「就活マニュアル」などにも載っているものではあると思う。
なので人によっては今更感はあるだろう。ただ、これは面接官の方や人事の方から聞いたこぼれ話であるので、説得力は大きい。
本当に、この仕事では色々な事を俺は勉強させて貰っている。只、それを眠らせるのではなく、それを生かして結果に繋げたい。
そう、考えてみれば俺が案内した学生と、俺と、有利不利の差は兎も角として、境遇は同じであるのだ。
彼らを応援しているだけではなく、俺自身にもそうして得たものを反映させねばならない。