任務:ラジコンロボットを販売せよ

 土、日と、某外資系大型おもちゃ店にて販売応援をしてきた。
店は俺の家からバイクで15分と至近。ビバ!ドアツードアで15分。
売るブツは、煙草の箱ほどの小さなラジコンロボット。これが二つ入ってサッカーしたり出来るものを売るのだが。


 初日の土曜日、指定された時間に店に赴いた所、既に50人以上の列が。
夏休み最後の土日だから、大勢来てはるのかしらんと思っていたのだが、答えは別だった。
俺も店に入り準備を終えて、開店したところ。その客達が「たまごっち何処?」と聞いてくる。
へ? たまごっち? 今更? と疑問に思いつつ、此処では無い事を告げるのだが、初日の客の質問の7割がたまごっちと言う盛況ぶり。しかもその客達は目当てのものが決まっているので、他のものには目もくれない。
どうやら今、再びたまごっちがブームになっているらしく、ガキ達の多くがネックストラップを付けてぶら下げている。なんだか妙なデジャヴに襲われる。


 俺のブースは店を入って地下にあり、側にはぬいぐるみやゲームがある。
しかも、この店は普通、大して客が入らない。そんな中でロボットのサッカーが売れるかと言えば、売れないわな。
お試しプレイ用に(こしら)えたブースも、暇そうな小学生がたまるだけ。
時折、興味をもって大人達が来るのだけれども、からかい半分で売り上げには結びつかない。


 暇を持てあましていると、二人の子供が売り物のぬいぐるみを綱引きのようにして奪い合っているのが目に入った。
幾らなんでも、そんな風にしていたら壊れて仕舞う。子供にそう語りかけると「これ展示品だから良いんだよ!」と。
それを聞いて俺、カチンと来ましてよ。
「じゃあ聞くけれど、これは君たちの物か? 違う、お店のものだよな。お店のものだったら壊して良いのか?」
そう問うと答えはないので、そのまま「これはお客さんみんなに、どんなものなのか試して貰うものだから、二人とも壊さないように、喧嘩なんかしないで順番で遊んで頂戴。そう、じゃんけんで順番決めよう。ほれじゃんけん。」と強引にじゃんけんをさせ、「ちゃんと順番で遊び」と二人の頭を撫でてやる。
つうか何で俺が、他人のガキの躾などせねばならんのだ。


 そうこうしていると、俺のブースの方が子供達で賑わい始めた。
遊び方などを教えつつ見守っていると、子供は次第にエキサイトしそのロボットを投げたりなどし始めた。
「乱暴に扱わないで。壊れちゃうでしょう」と注意するも、人の言葉に耳を貸さず投げたりしているのでまた俺、カチンですよ。
「良いかい? これは君たちの物でもなければ俺のものでもないんだ。これはお兄ちゃんが会社から借りてるの。だから壊す訳には行かないんだ。もし壊したら、君たちは弁償してくれるのか? あ?コラ」と、今まで作っていた笑顔を消して、眼球だけ下に向けて話した所、ヘラヘラ笑っているだけで返事は無い。
「分かったかどうかと俺は聞いている。分かったのか?」と再度問うと逃げ出していった。
その他にも、勝手にメンテナンス用の器具が入った箱をブチ撒けるわ、販促用のキーホルダーを勝手に持って行くわ、ラジコンの操作用コントローラーを持ってどこかに消えるわ。
その度ごとに、怒るのでは無く叱る。全く、親の躾がなってねえ。


 その他に、この店の俺の階には店員がおらず、畢竟、俺の所に迷った子羊共がやってくる。蔑ろにする訳にも行かぬので、その都度案内をしてやってたりなんかしたら、売れるものも売れん。
結果、両日共にこんな調子で総販売数1個と言う不甲斐ない記録を樹立。流石にクライアントに申し訳が立たない。


 考えてみれば営業と言うのは、どんなものであっても売らなければならん。
俺はその営業のスキルやノウハウを知らないのだが、知っておいても決して損では無いと思った。
どうすれば、人に購買欲を起こさせる事が出来るのか。そして実際に手に取らせ、買わせる事が出来るのか。
企業などに属していれば、研修などでそれを知る事もあるのだろうが、俺は徒手空拳、俺自身でなんとかするより他はない。