任務:逗子マリーナで椰子の木に電飾を設置せよ

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 延べ四日間に渡り、逗子マリーナでパームツリーに電飾を取り付ける任務についてきた。
当初、電車とバスの併用を考えていたが、どう見てもバイクで行った方が一時間近く早いので、かつ交通費もかからないのでそれで行く事にする。
朝7時45分に集合、と時間は兎角早いのだが、こちらはある意味近場であるし道も慣れている。
と、油断したのがいけなかった。初日は逗子マリーナに行くつもりが葉山マリーナに到着してしまい、慌てて現場の担当者に連絡を入れるも、誰も出やしねえ。急いで戻り、時間より10分遅れで逗子マリーナに到着すると、同じ派遣から来た奴が一人だけ。他にも一人いるのだが、彼はまだ着いてないらしく、またクライアントも到着していない有様。
確かにこの逗子マリーナは、些か分かりづらい所にあり、道を一本間違えるともう取り返しがつかなくなる。
おかげで結果的に、俺の遅刻も帳消しになり、それどころか、初日は1時間遅れで開始という好条件。


 具体的な仕事は、高所作業車に乗り込み以前付けた電飾をはがし、新たに発光LEDを取り付ける。
そして、バインドワイヤーでそのコードを固定し風で飛んだりしないようにする。
本来、高所作業は俺達派遣はしてはならんのだが、こうして曖昧にされている事実もまたある。
莫迦と煙は高いところを好む、という言葉にも在る通り、高所作業車に乗り込んで大喜びの俺。
高さはおよそ15メートル、ビル4階程度にあたる。時折、風に吹かれゆらゆらと揺れるけれども眺望は(すこぶ)る良く、逗子、鎌倉の海岸を一望しながら作業。
晩夏の陽射しは依然として強く、肌がじりじりと焼かれ汗は滲み、喉がすぐに乾くけれど、海風は既に秋の涼しさを多分に含んでいる。
2時間事に15分程度の休憩が入り、その度ごとに飲み物を買うものだから案外、その飲み物代が莫迦にならない。


 お昼は近くにある食堂「ゆうき食堂」で取る。
実はここは、一部で有名なお店で、すぐそばの小坪漁港で揚がった魚を調理し、安くて新鮮でボリュームのある魚料理が味わえる。
今が将に旬である「生シラス」を載せた丼や近場の三崎から買ってきた鮪、その他、その日限りの地魚など、兎角魚が好きな人はたまらない所だろう。
クライアントの人達も、飯が美味しくて良かったと仰っていた。


 眼下の青い海を見ていると、どうにも泳ぎたくなってしまってたまらない。
事実、三日目が終わってから、少しだけ、と材木座の海岸に赴いて靴を脱ぎ、波打ち際でひとりちゃぷちゃぷと水と戯れる始末。
最終日は早めに終わったので、汗だくの汚れた躯で、下着(傍目には海水パンツと似ているから)の侭、海に飛び込む算段であったが、海岸に到着してから急に小雨が降り出したので、後ろ髪を引かれながらも本降りになる前に慌てて家に向けバイクを走らせた。


 延べ60本近い椰子の木に電飾を点け、テストとして点灯させると、一斉に青白い光が点る。
その瞬間、妙な充実感があったのは否めない。
どうやら、この電飾は常設のようで、これから暫くはずっと点けると仰っていたので、またいずれ日と時間を改めて、ちゃんと綺麗に点灯しているのを見に来たい。
また、もしどなたか逗子マリーナの奥へと赴かれるようであれば、「ああ、あれが彼の付けたものなんだな」と思って頂ければ幸いだ。


 仕事自体は楽しく、また高所作業車なんて乗る事もあまり出来ないから良い経験をした。
唯、この時期の屋外作業はどうしても水分補給をまめに行わなければならず、必然その飲み物代が嵩む。
ケチってしまえば熱中症などで脱水症状に陥る危険もあるから、どうしても必要ではあるのだが、その事を鑑みると案外と、割に合わない仕事なのかも知れないな。


追記;「ゆうき食堂」は小坪漁港の側にある。もし行ってみよう、と思われる方があれば営業時間などを調べた上で行かれると良い。
俺は魚料理一般が苦手だが、それでも美味しいと思った。10月くらいまでなら生シラスも味わえるだろうし、メジマグロやワラサなどあまり目にしない魚の定食も豊富だから、好きな人は是非。
因みに、定食は一律880円だ。近くの肉屋には「しらすコロッケ」なんてものも売ってるよ。