任務:マンションのチラシを配布せよ

Wacrema2005-09-13

 ちょいと立て込んで居たので日記を暫くサボって居たが、まあそう言う事もある。
さて、その理由の一つに、ポスティングの仕事があった。
要はチラシ配布。マンションのチラシを各家庭に配って行くのだ。
かつて、ピザ屋でバイトしていた際に、余った時間にチラシ配布もさせられた事があり、トコトコと名古屋の街を散策しながら配り歩くのは好きだったし、要領も分かっている。そうした訳で紹介された仕事を承諾したのだったが。


 鶴見線沿線の某駅に集合し歩くこと10分、産業道路に面した不動産屋のモデルルームに赴き、安物のカートに入った二千程のチラシを受け取る。重さは結構あり、10kg以上は余裕であるだろう。
要はその荷を引きずり、8時間ぶっ通しで歩き配り続けるのだ。


その不動産屋の受付の女の態度が大変に悪く、あからさまに見下した物言いをする上、俺は初対面で、かつ部下でもなんでも無いのに顎で使われる。
たかが不動産屋の受付が何様の積もりだ、とカチンと来たので俺も慇懃に対応する。
その俺の言葉遣いに一瞬の怯みを窺い知ったが、一秒でも早く相手の顔を見ないで良いようにしたかったので、手続きを終え早々に担当する地域の地図を貰い任務地へと向かった。


 さて、土地勘が無い方に説明せねばならないのは、該当任務地のことだ。
産業道路」と言う名前から察せられるだろうが、その辺りは基本的に工業地帯で人家は少ない。
少し内陸に入ると街になる。下町と言えば聞こえは良いが、実際は余り経済的に余裕の無い人達が多く住んでいるような町が広がる。
家屋は築40年近い平屋やアパートなどが多く、人が住んでいるのか分からないようなあばら屋も数多い。他とは違う独特の匂いを感じる。
常識的に考えて、そう言う所に住まう人達がマンションを買うか、と言ったら可能性は低くならざるを得ないだろう。
また、その売り出されるマンションが建っている所も良い環境であるとはお世辞にも言えない。
そう、俺は賽の河原に石を積むように、やりがいの無い仕事に打ち込まなければならない。ファックなる事甚だし。


 当日は快晴、最高気温は35度を越える。
太陽はギラギラと照りつけ、一時間も歩けば汗だくになり、喉が乾き唾液が粘り気を帯びる。その様な中を一件ずつチラシを入れて行く。
しかも入れて行くに条件があって、アパートなどの集合住宅のみに入れて行き、小綺麗な大規模分譲マンションには(苦情が来るから)入れるな、という。
上述したが、アパートの殆どは錆びたトタンで囲われたような、郵便ポストも満足に設置されていないようなものが多く、住人の数も片手で数えられるような所ばかり。
そういう所を探してはチラシをねじ込んでいく。


 あるアパートから出た所で、俺は自転車にはねられた。ファック。
普通ははねられたほうが怪我をしがちだが、俺は幸いにも、自転車がぶつかったところがチラシを沢山詰めてあるウエストバッグでダメージはゼロ、自転車に乗っていたおっさんがゆったりとコケ、そして傷を負っていた。
ぶつけられた歩行者がピンピンとし「大丈夫ですか?」と訊き、ぶつかった自転車の方が痛がるという不思議な構図。
おっさんがスピードを出していなかったからお互いこの程度で済んだのだろうが、逆に、そのトロいスピードで後ろからぶつかるというのも、この町のに住む人を表していると言ったら過言だろうか。


 やがてお昼時になり、どこかで何か食わねばと辺りを見回すと、ちょうど「純喫茶」と行った風情の店を発見、入店する。
冷房に生き返った心地を感じつつ、メニューを眺めたものの何も食う気にはなれない。
既に、ペットボトル2本のドリンクを飲んでいたのだけれど、メニューの中の「ミルクセーキ」に惹かれそれを注文し、飯とする。
久々にこういったミルクセーキを飲んだけれど、うん、やっぱり家で作るのと違うね。
一時間ほど滞在した後に、一番日の高い町に戻る。


 配っていけば軽くなるとは言え、一時に大量に配れるような集合住宅などもまだ見あたらず、チラシの配布状況は遅々としている。ファック。
別に配布ノルマは無いのだが、あまり少ないとそれはそれで問題だ。
クソ暑いから動くだけで汗をかき喉は渇き、すぐに水分が欲しくなる。何か効率良い方法は無いものか。
昼飯を終え30分後にもう木陰で休憩しつつ、地図を見て出した結論は。


 −最初は大きい所から。
午前中回ってみた感じで、地図上に記されているアパートの大きさからほぼ、どれくらいの世帯が住んでいるかを判断出来るようになり、また名前から築年数が古いか新しいかも或る程度判断出来るようになった。
当初は地図の端っこから攻めていくつもりだったのだが、誰も居ないボロアパートを回るのは無駄だ。それを後回しにして大きなマンションや、団地から攻めれば減りは早いだろう。
貰った地図の、まず優先させるべき所に印をつけ、ルートを作って行く。
ルートから外れた所の小さなアパートは無視。ただそれでは数が合わなくなるので、概算でその分をルート上にある廃アパートのポストに破棄する。
亦、常にこのボロカートを引きずって歩くのもバカらしい。背中のリュックと腰のバッグにチラシを入れるだけ入れて、カートは公園に放置、ルート移動する時だけ持って行けば良い。どうせ盗む奴もいない。つうか寧ろ盗んで。


 作戦の結果は上々、カートを引きずらなくて良いと言う事でスピードも上がり、また減りが早くなっているから負担も軽い。
あるマンションでは管理人に「チラシはお断りします」と強い口調で言われ、済みませんと一応謝りつつも、「こういう類のチラシが鬱陶しいようでしたら、記載されている所に直接苦情言った方が良いですよ」と営業してるんだか邪魔してるんだか分からない発言をしたところ、神妙な顔をされる一幕も。
いやだって、俺にそんな事言われても配られるチラシが減る訳ねえじゃん。元締めにバシっと言ったらな。


 そんな感じで8時間近くをずっと歩き続けた訳だが、内心ファックとばかり言っていた気がする。
給料もさほど高くは無い上に、飲み物代だけで千円を大幅に越えたりしていれば、そりゃバカらしいと思うわ。
また、それ以外の大きな理由として、この行為に意味があるのか俺自身疑問に思っていた事がある。
どれだけの反響があったかは定かでは無いが、1800程度配ったチラシの内、真に効果を発揮したのは10に満たないのでは無いか。


 ここのところ、都内や横浜、川崎近辺でもかなりのマンションが建築されているのを目にするが、果たしてどれだけの人間が中に入るのだろう。供給過多で新築なのに廃屋と化したマンションは幾つか目にした事があるが、今の建築ラッシュも一部の所を除いてそのような結果になるのでは無いか。
だとすれば、建設自体が大いなる無駄であるし、またこうして(おおよそ買う当ての無い所に)チラシを作り配るのも無駄では無いだろうか。
確かに、不動産関係は売れたら額が大きい。多少出費が嵩んでも、売れたら元がとれる。そう言った意味からすれば、ハイリターンなギャンブルに近い。
ただ、ベットするにももう少し、色々と考えてからでも良さそうではある。
まあ、彼らがどう野垂れ死のうと俺が知った事ではないのだが。