連休中の箱根旅

 この連休を利用して友人がこちらに遊びに来たので、俺も一緒に泊まりがけで旅に出ていた。
とは言え、長距離移動した後であまり遠出もしたくないと言う事で、俺が運転手となり湘南方面へと向かう。
まずは、友人が宿を取った藤沢に赴き落ち合いて、昼近い時間から車を走らせる。


 取り敢えず、箱根の温泉でも行こう。
藤沢の辺りは地理的に疎く、カーナビなども無いけれど、国道134号線に出てしまえばこっちのもの。
と思ってたんですけどね。
まず藤沢から出られないんですわ。
道が入り組んでいる上に一通が多く、かつ車の台数も多い。混雑している迷路を彷徨っている感じ。
こっちじゃない、あっちじゃない、等と言いながら藤沢出るのに一時間は費やしたと思う。


 何とかR134に合流し、そのまま西湘バイパスを通れば箱根まではすぐ行ける。はず。
それがあんた。連休でガチ混みですよ。多分徒歩のが早く着く。そんな位に進みは遅々として。
ブレーキを踏みっぱなしで、時折緩めて進ませて、と繰り返していると足が攣りそうになる。
足が攣る前に漸く箱根の入り口に着き、目指すは立ち寄り湯、天山。
ここは以前にも紹介したのだけど、かなり居心地が良い立ち寄り湯。側には美味しい魚料理を出すお店もある。
「いやあ早くも疲れたよ」などと話ながら駐車場の方に進めば。
車が駐車場に入りきれなくて、「待ち」として狭い山道に列をなしている。その数20台はあっただろう。
それを見た瞬間、一気に萎える。狭い山道で切り返す技量は俺には無いし、待つのもダルイからこのまま真っ直ぐ進んで別の温泉に行こうと提案、可決される。


 七曲がりと言われる蛇行した山道を頭文字D気分で突っ走る。でも安全運転。
暫く進むと、さほど大きくはない温泉地に遭遇、立ち寄りが無いかどうか聞いてみる事にする。
しかし、丁度立ち寄り受け付けの3時を僅かばかり過ぎてしまっていて、入る事出来ず。Fuckなどと言いつ更に先を目指す。
20分程進むと、少し開けたような感じになってきた。山頂が近いのだろうか。更に暫し進み、小湧谷温泉と書かれた看板を発見、その案内に従い進むと、突然大きな建物が視界に入った。
大規模なスパリゾート施設のようで、ここなら時間で入れないと言う事もあるまい、と早速車を駐車場に入れ、待望の温泉に向かう。


 ここは水着で遊ぶ施設と、裸になって湯につかる使節とが別れており、水着ゾーンはかなりの大きさがある。
某TV番組でも度々使われているらしく、大きなおみやげコーナーにはその関連グッズも置いてあった。
生憎と俺達は水着など用意しておらず、一時は買う事も考えたが面倒くさいので湯につかるだけにする。
全裸になりて湯殿に早足で向かった先に見た物は。
洗い場待ちの人の列。流石、連休。何をするにもガチ混みだ。
露天だから風が吹き込んで寒い中、全裸で待つ人々。おーい、ここはアウシュビッツですか。これはガス室に送られる人の列ですか。
そんな事を思いつ、15分程度待って漸く体を洗う事が出来るような始末。


 「ゴカゾクヅレ」という(かしま)しい集団に些か辟易しつつ、半ば意地で湯船を渡り歩き汗を掛けば必然、腹も減る。
風呂から上がり、取り敢えずの一服を決め寛いでいたところでまた、ゴカゾクヅレのやかましさに嫌気が差し−だって子供とか無遠慮に人を蹴って行くんだぜ−、もう少しだらりとしたいのは山々だが早々に撤退を決め込む。
秋の日は釣瓶落とし、と言うけれども、何時しか辺りは真っ暗になっていた。
案の定、箱根から降りるにもかなりの渋滞で、山から下り西湘バイパスに乗った頃には既に夕飯時。
当初、湘南の生シラスを食わせる算段−俺は魚嫌いなので食費も浮くと言う目論見もあったが、ふと美味いと言うカレー屋があったのを思い出し、江ノ島方面で降りる。


 「ビッグ・サー」というそのカレー屋は、「薬膳カレー」とも呼ばれる一品を出す。
まあ元々カレー自体が漢方薬の塊なので、この表現は当たらずとも遠からずと言った所なのだが、既に食べた事のある弟曰く、「いつの間にか食ってる。で、翌朝は朝立ちが凄い」とのこと。
兎角、食べて見ない事には始まらないとオーダー。
ぶっきらぼうなんだかやる気が無いんだか分からんおっさんマスターと話しつつ、出来上がりを待つ。
出てきたカレーは思ったよりも量が多く、正直これ食べられるかな、と心配していた。
でもね、食えちゃうんですよ。しかも苦しい満腹感ないの。
味は正直、少しあっさりしてるかなと思ったのだけど、マスター曰く、最初から味が濃いと飽きるから、との事で塩を薄目にしてるらしい。だからか、食ってる最中一度も水を飲まなかった。
びりっと来る辛さもなく、されど何時しか汗は流れる。結構不思議な感覚。


 食い終わってチャイを頼み−これもスパイスが効いていて乳臭さを余り感じず飲めた−マスターとまた歓談していると、隣の飲み屋から客がなだれ込んできた。
店内は狭く、そんな沢山の人が座れるスペースも無いので、忙しくなる前にと勘定を済ませ、店を後にする。
宿に着くまで、そのカレー屋の感想で話の花を咲かせつつ、夜の134を疾走する。
134沿いは夏の間仕事していた事を思い出す。
ああ、ここでクマンバチに襲われかけたな、とか。ここの修理大変だったな、とか。
大変だったけど、楽しかったな。
そんな事を思いつつ、ふと近道しようと夏の仕事の時に使っていた裏道を抜けようとしたら迷ったのは此処だけの秘密。
あたかも知ってる様に車を進め、鎌倉に逆戻りする不思議。まあそう言う日もある。
気が付きゃ時間はチェックインの時間を過ぎている。内心焦りを感じつつ、また俺の家の側を通った時に「お疲れ〜、帰っていいよ」などとも言われつつ桜木町になんとか辿り着き、チェックイン。
桜木町なんて確かに距離近いし帰れる距離ではあるけれど、偶にこうして「お泊まり」してダラダラと話たりするのは決して無駄じゃあない。


 こんなのは久しぶり。
俺も心の洗濯を出来たと思う。普段はどうしても、仕事などに追われてしまいがちだけど、遊ぶ時は目一杯遊んでエネルギーを蓄えたい。
その意味で、久しぶりに羽根を伸ばせた。
誘ってくれた友人に、今更ながら感謝を。