男らしさ、女らしさ

 少し前、友人との他愛の無いメールの遣り取りをしていた。
内容は、仕事の上司に対する愚痴のようなもの。
もう少し詳しく書くと、以下のようなものになる。
・上司が、他の上司の前で友人に対し、「他の社員と違って中身は男だから、変に気を遣う必要がない」と言う。
・同様に友人に対し、「お一人様タイプだろう」「男は一人で行動することが当たり前だ」と言う割には、出張で自分一人で食事するのが寂しいからと夜遅くまで付き合わせたり、並びの座席を取るためだけに飛行機を予約し直したりする。
こういうことに対し、件の友人は矛盾を感じ俺に愚痴ってきたのだが、俺もこれを聞いていて、少し考えるところがあった。


 「男らしさ」「女らしさ」というものは、外見だけでは無く内面もまた重視される。
それを端的に表すのが「中身は…」のくだりだ。
しかし、内面で「男らしい」「女らしい」とはどういう事を指すのだろう。
上記の、上司の言葉を借りれば、男は一人で行動し、女は群れて行動するというのが一つ挙げられる。
しかし、これは「らしさ」を表すものでは無い。徒党を組みたがる男は腐るほどいるし、逆に孤軍奮闘する女を何人も俺は知っている。寧ろ、俺の知る女はそう言うタイプが多い。従って、これは「らしさ」の証明とはならない。


 確かに、そう言う傾向はあるだろう。それは一つには、親や社会からの教育に依る所が大きい。
現代に入るまで、専ら男は外に出て稼ぎ、女は家の中で守ると言う役割分担が形成されてきた。
恐らく、起源は狩猟していた頃にまで遡るだろう。男が外に出たのは単に、セックス(*肉体的性差。この文中での「セックス」は以降この定義)によって狩りをする際に男の方が有利だから、そして不利である女は家にいた。それだけだった筈だ。
それが習慣となって、今もあるような社会的役割に変遷していっただけでは無いだろうか。
それを裏付けるように、女性の社会進出が増えてからは、専業主夫も増えてきている。
殊、現代に於いて、セックスによる仕事の有利不利と言う問題はあるにしても、基本的には性差を問わず稼ぐことが出来る以上、そういった「らしさ」と言うものは形骸化した遺物なのではないか。


 しかし、根付いた習慣と言うものはなかなか覆し難く存在し続けている。
だからこそ「男らしく」「女らしく」と言う、具体的なようで曖昧な定義を押しつけ、そして「男」「女」と言う役割に填め込もうとする。
確かに、社会にとって役割と分担と言う問題は非常に重要な要素である。
例えば、「大人になれば社会に出て稼がなくてはならない」と言う役割を担うものが少なくなれば、今のようにフリーター・ニートのような問題が沸き起こる。(但し、このフリーター・ニート問題の要点は決してそこでは無い事も付記しておく)
同様にして、「男」「女」と言う役割自体も、恐らくは不可欠な要素であるのだろう。


 だが、肝心なのはその男女の役割と言うものが留まるべき枠を超えて適用されていることではないか。
例えば、上記の友人の話にしても、仕事上に於いて男女の役割など本来は大差ない。
必要なのは仕事をこなす能力であって、男だろうが女だろうが有能な奴は有能だし、無能なのは無能だ。
そこに男女と言う枠を持ち出す事はナンセンスであるし、また仕事上に於いて「男は…」「女は…」と言う発言をすることは無意識に性差別をしているだけに過ぎない。
今もなお、人をその性差別に陥らせるものが過去からの習慣である。


 ではそもそも、「男らしい」「女らしい」とは何なのか。
先に俺の結論から述べれば、「知りません、そんなこと」。
セックスという観点では象徴となる事はいくつかあるだろうけれども、それは単に生物学的な差異でしかない。
これだと話が進まないので、ネットで検索をかけた所、やっぱりわからないと言う結果に終わった。
よく見られたキーワードとして「寡黙」「即断即決」「頼りになる」などがあったが、そこに男女の関係、意味はない。
寡黙というのは言い換えれば「おしとやか」であり、そしてコミュニケーション下手とも表裏一体。
また即断即決も言い換えれば浅慮。男らしさを表すどころか、逆にデメリットともなり得るものだ。
恐らく、読者諸君に於いても同様、「男らしさ」「女らしさ」を明確に論ずることが出来る人はごく少数、或いは居ないのではないだろうか。
姿はあるようで無い。将に亡霊のように存在し続けるものが「らしさ」ではないのだろうか。


 結局、「らしさ」と言うものの使いどころは、現代に於いてあるとすれば自己、或いは自分の性を正当化したりするための武装以外に他ならず、そのような「亡霊」に囚われるのも莫迦らしい事この上ないし、そんな事よりももっと重視すべき事柄は他にあるのではないだろうか。
にも関わらず、依然として「亡霊」が在り続けるのは、習慣と言う事例の他に上記のようにその亡霊に頼る事でアイデンティティを保持したいと考える者が多く、だからこそ払拭しがたいのもまた事実なのだ。


 と言う事を巨人の星Ⅲを打ちながら考えてましたよ。
リプ3連、なかなかしないね。


追記:もしこれを読んだ方で、「男らしい、或いは女らしいとはこういう事だ」と言うのがありましたらコメントとして書いてくれると嬉しいです。
いや、参考にするとかそう言うもんじゃなく、ただの思いつきで。
だから別に、それに対し論破したりとかもしないです。ああ、この人はこういう事考えてるんだな、とする程度。