「仕事をすること」に抱く恐れ


 3月に入ってから暫く、貧窮している。
少しばかり体調を崩して仕事のブランクが開き、そしてそれをきっかけとして突然、仕事にある種の恐れを感じるようになった。自分でも良く分からなかった。
突発性の自信喪失と言っても良いかも知れない。腰が引け、せっかく会社が仕事を斡旋してきても断り引きこもる日々が続いた。
甘え、或いは怠惰。同情の余地なし。そう人は思うだろう。
怠惰などとは断じて違うのだと俺は思っているのだが、しかし、その立場になった人でないと恐らく理解はされ難いだろう。何故なら、俺も「仕事が怖いなんてあるか」などと同様に思っていた事があるからだ。


 そもそも俺はどちらかと言えば慎重に過ぎる「守り」の性質で、まあ言い換えればヘタレ。
その癖、無鉄砲で恐れを知らず猪突する「攻め」の性質を持ち合わせてる矛盾を抱える。
その性質が上手く噛み合えば何事も上手く行くのだろうが、悪い方に転ぶと目も当てられぬ。
本来こう言う時こそ「攻め」で行かねばならぬものを、「守り」に入ってしまっては自らを縛り付けているようなものだろう。
その連鎖が恐れを増幅させる。


 ともかく。
その間も支出はあるから気がつけば、もう後が無い有り様。
「精神を凌駕するのは習慣と言う怪物だけなのだ」と三島は言ったが、俺のこの弱い気持ちを凌駕するには再び、仕事に行くと言う習慣を体に刻み付けねばならないだろう。
そう、半ば盲目的に決め付け、小さな勇気を出して会社に仕事の斡旋を頼んだ。